おおかみさんと! | ナノ
おまえと猫


動物は、特に考えなく接していてもうるさく捲し立てることもなければ、暴力を振るってくるわけでもないから楽だ。まあ、流石にクマやらライオンやらは危ないかもしれないが、少なくとも今俺が眺めているウサギはそんなことはしてこないはずだ。最低でも、噛んでくるぐらいだろう。

「靖友もウサ吉にご飯をあげてみないか」

「いいよ、俺は。見てるだけで」

鼻の辺りをもこもこ動かしながら、新開の飼っているらしいウサギは葉野菜を食んでいる。部活が始まる前、ちょっと時間がある時に新開とここに来ることは結構ある。いつもは泉田がいたり、福ちゃんも来たりすることもあるが、今日は俺たち二人だけ。
そういえば、佳月が来ていることもある。それ目当てで俺がここに来るわけではないが。アイツと新開と仲良くなったというのは、日常的に見ていればよくわかる。新開も新開で、男女関係なく人当たりはいい方の奴だ。男のくせに甘党で、東堂に負けず劣らず女子にきゃいきゃい騒がれている。そういう意味で、あっけらかんと接してくれる佳月は話し易い。と、さっき言っていた。
屈んだ体勢で足が少々だるくなってきたので、そのまま草の上に腰掛けた。春の草は柔らかくて、存外座り心地は悪くない。
新開は手にしていた野菜がなくなると、俺の方へやってくる。必然的に見下ろされていて気に食わないが、仕方ない。

「靖友は、俺に嫉妬したりするのか」

「ハァ? なんなの急に」

予想だにしていない発言に口元が引きつった。もしかしてあのカチューシャ野郎、こいつにバラしやがったのか。

「いや、不可抗力でね。この間、学食で尽八と話してたろ」

「てっめ、居たのかよ!!」

「聞くつもりはなかったんだ、悪い悪い」

手を上げて軽く笑われたが、こいつ本当に申し訳なく思っているんだろうか。ちょっと面白いことになったとか考えてるに違いない。
こいつにバレると福ちゃんにも伝わる可能性が出てくる。それだけはなんとかしたい。恋に現を抜かして練習が疎かになっていたりするわけでは決してない。勘違いされたくない。
あと、単純に物凄く恥ずかしいから嫌だ。

「あと、真波が……」

「あァ!? ふっざけんなヨ、どこまで伝わってんのォ!」

「いや、俺はその時、真波と居たから」

「最ッ悪だヨ!!」

思わず顔を覆った。予想外すぎる。なんで、あの不思議チャンにまで情報が流れてんだよ。一緒に居るなよ。つか、盗み聞きしてんじゃないよ。近くに居たなら最初っから声かけこいよ。
まあ、アイツが他の誰かに言うとは思わないし思えないがそういう問題じゃない、俺のメンツが危うい。
そもそも悪いのは東堂なんじゃないだろうか。あんな、大多数が耳にしてしまうようなところで話題をふってきたのが悪い。
あれ、というかあの時ってそんなに具体的な話してたか? 思い出すのも嫌だが、俺が一方的に東堂にからからかわれるような感じだった気がする。
深く考えるよりも前に、ようやっと俺と新開の視線が同じ高さになる。気がついてなかったが、ウサギを抱えていたらしい。

「荒北さんも恋なんてするんですねー、って真波が言ってたぞ」

「追い討ちかけんな! いいだろ別に、ほっとけヨ!」

「はは、やっぱりそうなんだな」

やっぱり? 俺が睨むと、新開はすまん、となぜか謝った。そして、俺はとんでもない過ちを犯したことに今更ながら気がついてしまった。まんまと引っかかってしまった。

「てめっ……カマかけやがったな」

「うん、悪いな。確認しておきたかったんだ」

「不思議チャンの話は嘘かよ」

「いや、あれは本当」

どう言い返せばわからなかった。新開はウサギを撫でながら微笑んでいるが、どうにも気に食わない。
真波、アイツは何者なんだよ。わけわかんねーよ。
おもいっきりため息が出る。どうしてこうなった。他の奴らがわかってしまうのも時間の問題なんじゃないか。俺ってそんなにわかりやすいだろうか。積極的に佳月に絡んでいこうとしたりしていないはずなのに。むしろ、クラスが別だからそういうタイミングすらない。もちろん、先日のように昼が一緒だったり、たまたま夜に会うことはある。移動教室の時に廊下ですれ違うと挨拶は向こうからしてくるので、俺もそれに返す。
それから部活が終わった後に他愛ないことをメールしたりすることはあるが、その内容もメールしていることも、俺と佳月しか知らないことだ。

「わかりやすいって言われるだろ」

「自分では全くそんなつもりはねーよ」

「じゃあ教えてやるけど、登ちゃんのこと目で追ってるのが一番わかりやすいかな」

絶対誰もわからないだろうと高を括っていたことから言い当てられた所為で、少したじろぐ。なんだよ、こいつ俺のストーカーでもしてんのかよ。なんでわかるんだ、ふざけんな。
いろいろ言いたいことはあるが、代わりにため息しか出てこない。
顔の辺りを押さえる手は動かせなくて、目だけ覗かせて相手を睨み続ける。
どうして手を退けられないかというと、自分でも熱くなっているのがわかるからだ。

「いや、登ちゃんが俺と一緒に居るときもすごい見てくるだろ、お前。気になって他の時も視線追ってみただけの話だよ」

「そこ気にしちゃわなくていいから」

「応援してるぞ。だから俺には妬かないでくれよ」

「しねーし」

ていうか、応援してるってなんなんだよ。東堂にも言われた。どう応援してくるってんだよ。余計なことされたら溜まったもんじゃない。頑張れとか思ってんのかな。残念ながら俺は頑張れって言ってくる奴は好きじゃない。何に関しても。
これから自転車に乗るというのに、こいつのせいで身体が重い。もちろん、部活中は気持ちを切り替えるが、部室に行くまで顔を覆ってため息を連発することしか出来ないのは格好悪すぎだろ。
新開はうさぎとじゃれているが、俺はそれどころじゃない。

「まあ、靖友もウサ吉撫でて落ち着こう、な」

「誰のせいでこうなったと思って……ん?」

文句を言いかけて、携帯が震えるのを感じる。メールらしい。
へんなタイミングで、誰だろうと画面を確認する。差出人は東堂だった。
読まずに携帯をポケットに戻そうと思ったが、画像が添付されている。なんだ、珍しい。
メールを開けて、画像も表示する。どうやら見ずにしまわなかったのは正解だったらしい。

「靖友、ウサ吉」

「んなゴリ押ししてくんな。俺は猫の方が好きなんだヨ」

さっさと部活行くぞ、と改めて携帯をポケットに突っ込む。
あとで会ったら、東堂にはポカリでも奢ってやらなくもない。

To:荒北
さっき校庭に猫が迷いこんでたんだが、登が捕まえたんだ。
それを撮ったので、お前にも写真をやろう。感謝しろよ、ワッハッハ!

つい、即効で保存してしまった。後でPCに送っておこう。
急に気を取り直した俺を見て不思議そうにウサギを籠へ戻す新開を他所に、早足で部室に向かった。



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