おおかみさんと! | ナノ
きみとお友達


箱根学園に転校するとなって頼ったのは、やっぱり幼馴染の東堂尽八だった。
なんだかんだで世話上手というか、わたしがいろいろ尋ねると余計なことまで教えてくれるくらいだ。1を訊いたら10で返してくれるという表現がよくそぐわっている。
余計といっちゃ失礼かもしれないが、学校のあれやこれや以外に彼が詳しく教えてくれたのは、自分の部活の仲間のことだった。彼らに許可をとったのか定かで無いが、なぜか連絡先まで教えてくれた。いや、さすがに許可はとっていたんだろう。
この学校は寮があるので、勉強に専念する気満々だったわたしは迷わず寮に入ることを決めた。3年次編入という学校にとっても寮にとってもありがたくないタイミングではあったけれど、幸い空いていた。一人部屋なのが嬉しい。あと、お風呂が温泉なのもとても嬉しい。
春休みの後半、引っ越しもあるので早めに寮に入った。てっきり、尽八くんは春休みくらい実家に帰っているものだと思ったけれど、自転車に夢中で寮に居た。その仲間たちもしかりなので、この短期間で随分仲良くなった。と、思う。思いたい。
転校してくる前が女子校だったので、尽八くん以外の同学年の男子とどうでもいいことを話すのはなんだか久しぶりだった。部活の交流試合等で他校の生徒と話すことはあったけれど、往々にしてスポーツ関連の話しかしていなかったから。時には言い寄ってこられたこともあった気もするが、正直男子より女子のほうにモテていた記憶しかない。

梅の花の時期も過ぎて、桜もすっかり咲いて、もうすぐ学校が始まるそんな時。例によって尽八くんから聞いたが、今日、4月2日は彼の仲間のひとりである荒北靖友くんのお誕生日らしい。
今日は練習が休みと聞いていたので彼の部屋を訪ねると、まあ休みなので、スウェットにTシャツ姿の荒北くんが面倒くさそうに出てきた。わたしもジャージの短パンにTシャツなので、人のことは言えないが。

「あァ? 誰かと思ったら佳月かよ」

「悪かったね」

「いや、悪かないけどォ」

急に威嚇するように声を出してくるが、いつものことだ。
彼はまあ、はっきり言わせて貰うと非常に口が悪い。初めは物怖じしていたが、大分慣れた。きけば元ヤンキーらしい。いろいろあったのかもしれないが、今は真面目に自転車に乗ってレースをしているんだから改心したんだろう。
半開きだったドアがいきなり開かれたので何事かと思ったら、先客が居たらしい。しかも二人。

「なんだ、登じゃないか。入れ入れ」

「登ちゃんなら歓迎だよ、どうぞどうぞ」

「おい、俺の部屋なんだけどォ!」

カチューシャと赤い髪に中へと促された。尽八くんと新開くんだ。同じ学年なので、仲がいいんだろう。
尽八くんがわたしのことを名前で呼ぶのは昔からだが、会って日の浅い新開くんにまで名前で呼ばれているのには理由がある。どうやら、彼は友達のことを下の名前で呼ぶのが好きらしいのだ。それで、「尽八の友達は俺の友達だな」とか言って、手で拳銃を作ってウインク。それから、わたしのことは名前にちゃんを付けて呼んでくる。ダメなわけもなく、個人的には嬉しい限りだ。
尽八くんが手を引くので、荒北くんがいいと言ってもいないのに結局部屋にお邪魔することになった。文句が飛んでこないところを見ると、どうやら大丈夫らしい。
そもそも、わたしも部屋に入るつもりじゃあなかったんだけどなあと思いつつ、持ってきた荷物を勝手に置かせてもらった。
結構重かったので鈍い音が立つ。それを不思議そうに眺めているのは部屋の主。

「お前、なに持ってきたんだヨ」

「ああ、これ。好きだって聞いたから」

ガサガサと取り出したのは大きなペットボトルが3本。赤と青のマークの炭酸飲料だ。
一応、後輩の黒田くんに何が好きかリサーチしたらこれだと言っていたので割高だがコンビニで買ってきたけど、思ったより重かったなあ。
並べてから、一緒に買ってきたお菓子も全部乗っけて重ねて、荒北くんに差し出す。

「こんなものでまあアレだけど、誕生日おめでとう」

「ンだよ、いいよそういうのは」

おめでとうとか言われる柄じゃねーヨ。とそっぽを向いてしまったのできょとんとしていると、わたしの両サイドに尽八くんと新開くんが寄ってきた。

「喜んでいるが素直にそれが出せんのだ、許してやってくれ」

「全く、靖友は本当に素直じゃないな」

にやにやっとした笑いさえ浮かべて。もちろんこちらから6つの目玉を向けられている荒北くんは、腰に手を当てて否定を続けるがこの二人の前では無駄なようだ。
結果、喜んでくれているらしいということに結論づけたわたしはしばらく3人とお話した後に部屋を後にする。男子の部屋にそう長居するものちょっと落ち着かない。
おまけに尽八くんと新開くんはファンクラブがついているので、後々厄介なことにならないためにも人気がないのを十分確認してからまたね、と手を振って扉を開く。尽八くんには引き止められ、新開くんにはウインクされたがこれからちょっと勉強もしないと。
名残惜しそうな視線も振り払って自分の部屋へそのまま向かおうとしたが、外の桜が綺麗に咲いていたことを思い出してちょっとだけ散歩することにする。
鼻歌を歌いながら、誰もいない寮の廊下を駆け抜けるのはちょっと快感だった。

外はまだ少し風が冷たい。どう考えても半袖で着たのは間違いだったが、室内に居たので仕方が無い。しかし、桜の花は肌寒さなど物ともせずに満開だ。
大きく伸びをしていると、誰かに名前を呼ばれた気がした。まさか、桜の精か? なんて乙女チックなことを考えたが、よくよく考えてみると聞き覚えのある声だった。
振り向くと、今度ははっきりと聞こえる。

「佳月!」

「荒北くん。どうしたの」

走って追いかけてきたらしく、ちょっとだけ息が荒い。でも、運動部なだけあって疲れているようには見えない。こっちに歩み寄ってくるので、何事かと首を傾げると何故か睨まれる。

「てっめ、足はえーんだよ」

「一応、元陸上部だからね」

「つーか廊下で走るなヨ!」

「ええ、元ヤンに怒られた」

ふっと吹き出す。更に睨まれてしまうが、もうあんまり怖くない。
それで、何しにわたしを追っかけてきたんだろうなあ。逆側に首を小さく捻ると、何故か舌打ちされた。そして、後ろ首を抑えてそっぽを向いている。

「なに? わたしなんか忘れ物でもしたっけ」

「してねーヨ、ねーけど」

「え、気になるんだけど」

少し詰め寄ると、一歩後ろに後ずさられた。面白いのでずいずい足を進めると、荒北くんはそのままずるずる後ろに下がって、桜の木に足をコツンとぶつけた。
当たってから気付いてようやく振り向いてから、ひとつため息を吐いている。待つことに少し飽きてきたので桜の花の方ばかりに目を遣っていると、再び名前を呼ばれる。

「おい、佳月」

「んー?」

「アレだよ。……あり、がと、な」

言葉を耳にした瞬間に視線を荒北くんに戻したが、案の定凄い早さで顔を逸らされてしまった。まさかと思ったけれど、言い損ねたお礼をわざわざ言いに来てくれたらしい。
大していいものをプレゼントしたわけでもないのに、部屋に2人を残して走って来てくれたなんて。キャラに合ってないっていうか、意外というか。
耐え切れずに笑ってしまうとまた怒られてしまったが、その勢いでこちらを向いた荒北くんの顔は予想通り、ちょっぴり赤くなっていた。

「ねえ、もっかい言ってもっかい」

「二度と言わねーヨ!」



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