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(主人公は巻ちゃんの彼女です)










新開が、いいからはやく部屋にもどったほうがいいなんて言うから何事かと思いながら寮の自室のドアを開けて、ギョッとする。
ベッドによく見知った女の子が寝転がっていた。
布団をかけずにだらっとうつ伏せに寝ていて、制服のスカートがだらしなく中途半端にめくれている。パンツ……は見えないが中に履いているスパッツが見えてしまっているではないか。

「登……何をしているのだ」

「べーつーに」

「別にではないよ。せめてもうちょっと上品に寝なさい」

「やーだ」

深い意味はないが部屋に鍵をかけて、ベッドに腰掛けるがこちらを見る気配がないし、枕に口が埋れてくぐもっているこの声も、どう聞いても機嫌が悪い。
彼女の手に握られた携帯はチカチカ光りながら震えていて、メールを受信している様子だった。登が相手によって光る色を使い分けているのは知っている。LEDは緑色を放っていて、誰からなのかは一目瞭然だ。

「ほら、巻ちゃんからメールではないか」

「やだ。見ない」

「なぜだ? 巻ちゃんだって恋人からの返信は早い方が嬉しいだろうに」

「いいの、見ないの」

あ。
今更気づいてしまった。
登の鼻が赤い。すぐに涙声だとわからなかったのは、幼馴染として不覚だなあ。
俺の枕を濡らすなよ、と苦笑を浮かべながら少しだけ寄れば、漸くちらりとこちらに視線をくれた。

「巻ちゃんと何かあったのか?」

「ない、けど、……」

「けど、どうしたのだ」

なるべく優しい口調で頭を撫でてやると、枕カバーの縁の余った布をくるくると手で弄っている。すん、と鼻を鳴らしてから、登は携帯電話をベッドに置いて起き上がる。俺の枕を抱き締めたまま。

「なにもないけど、ないからさみしい」

「と、いうと」

「巻島くんに会えなくてさみしいし、心配とか嫉妬とかあんまりしてくれないから更にさみしい」

なんとも悩める本音が下を向いたままの口から出てきた。普段俺に酷い悪態をついてくる時とのギャップが凄まじい。
会いたいと思った時にすぐに会える距離に居ないということは、さぞかし辛いんだろう。普段は巻ちゃんがイギリスに行く前と同んなじ風に、気丈に明るく振舞っているが、その実は女の子らしいというかなんというか、甘酸っぱい切なさで胸がいっぱいなのだろう。
登は心配も嫉妬もしてくれないなんて言っているが本当はそんなことなんてないのを知っている。だが、巻ちゃんも素直は方ではないからなあ、と頭を押さえる。

「メールを見ると余計さみしくなってしまうということか」

「うん、まあ……」

「……なんなら巻ちゃんを嫉妬させてみるか?」

この言葉には流石にえっ、と声と顔が上がる。俺がふふんと鼻で笑ってみせると、あまり大きくない手でがっしりと肩を掴まれた。その目は予想以上に真剣味を帯びていて必死だ。

「そんなことできるの? あの巻島くんだよ? わたしがいくらこっちのこと自慢しても、例えば坂道くんとめちゃくちゃ仲良さげな写メとか送っても『楽しそうだな』としか送ってこない巻島くんだよ?」

「そんなことしてたのか。というかメガネくんじゃあ……まあ」

お前たちはイトコ同士だろう。そう言うまでもなく本人もそれは自覚しているらしい。それにしてもなんだその癒されそうな写真、俺もちょっとほしい。しかし、それ以外にも登が巻ちゃんにいろいろと写真を送りつけているのは知っていた。
その証拠に、最近登に会うと一緒に写真に写るように頼まれる、という話が部内で実しやかにされている。
最近俺が現場を目撃したものだと、嫌がる荒北と無理矢理肩を組んで撮ったり、ウサ吉と新開とスリーショットを撮ったり、慣れないピースをするトミーと撮っていたりしていた。
そして、それに対する巻ちゃんのクレームも、俺は知っている。登が巻ちゃんにそういうメールを送ったであろう日には必ず、愚痴メールが届くのだ。
嫉妬をしない? バカを言え、登が知らないだけで巻ちゃんは相当気が気ではないのだぞ。
それを踏まえて、そのクレームを直接登に伝えてくれるようなことをすればいい。……巻ちゃんに次あった時、出会い頭に一発殴られるくらいは譲歩するしかない。

「まあ、というわけで登。俺と写真を撮ろう」

そう言うなり、間髪入れず俺は登の肩を掴み返して、引き寄せる。同時にポケットに入れていた携帯を取り出してカメラ機能を起動する。
ちゅっと短い音。それからカメラのシャッター音。自撮りの角度を誤ると思うなかれ、画面にはきょとんとした登の頬にキスをしている俺が収まっていた。

「え、えええええ」

「嫌だったか? 登が巻ちゃんと付き合ってからというものしていなかったが昔は挨拶と言ってよくしていたではないか」

「そうじゃなくてさあ」

「あれは確か2人で何やらテレビでやっていた洋画を見てから真似したのだったか。幼い俺たちは実に可愛らしいな」

言ったことは事実であり、当の登も照れているわけではなく、俺があまりに正確に写真を撮ったこととか、そういうことに困惑していた。
登の携帯を勝手に手に取って赤外線で送り、先程巻ちゃんから来ていた未読メールを勝手に開いて返信を選択、画像の添付をした。

「あ、さっきの巻島くんのメール……」

「ほらほら登、送ってしまうぞ」

「えー、無言メールはちょっと……」

「では何か適当にひとこと」

登が俺を自由に泳がせるのをいいことに、ボタンを打つ。登が絶対に言わないだろうことを、敢えて書いて送りつけてやろう。

「では送信」

「時間かかるんだよね、画像送ると」

「それでも熱心に送っていたよな、巻ちゃんに」

「だーってー巻島くんちっとも妬いてくれないっショー」

「それほど登を信用しているんじゃないのか? ほら、もう少しで送信が終わるぞ」

巻ちゃんの口調を真似ながら再びベッドに寝転んでゴロゴロと転がっているその姿は先ほどまでより元気になっていて、少し安心する。
俺は登が男だろうと、こうして仲良くなっていたんだろうなあと思うことが度々ある。姉は俺が登のことを好きだと思い込んでいて、いつ結婚するんだなんて言ってきたこともあったが、好きは好きでももっと何か綺麗で尊くて、キラキラした宝石みたいな気持ちだ。
もうスカートが履いている意味を成していない程ぐちゃぐちゃになっているのが見えて、少し直してやろうと手を伸ばすと、それを遮るように持っていた携帯が震えた。LEDの色はもちろん緑色。
見なくても中身はだいたい想像できる。登が嬉しいやら困ったやらいろいろ混じった変な顔をしているのを見ればわかった。

「うわぉああ巻島くんからきたぁあはやいすごい長いメールなにこれ」

「登、今度巻ちゃんに会う時は俺のことを庇ってくれな」

「えーどうしようかなぁ」

「親友は大事にするものだぞ!」




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