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すぅすぅと、男なのに上品な寝息を立てて寝ている、わたしの恋人。
先に寝てしまっていたのはわたしなのだけれど。
巻島家のベッドの誘惑には未だに負けることが多く、彼が作業をしている横でコロコロ転がっていると、いつの間にか夢の世界へ。
こんなにフカフカで、軽くてあったかな布団が悪いのだ。 (いいえ、悪いのは彼が勉強している横でぐーすか寝ているわたし)
ふと、制服のリボンが外れていることに気づく。彼なりに何かしらの葛藤があったのだろう。
別にもう彼とも未経験でもないし、むしろ彼としかしたことはないし、されても構わないのに。そうは思ったが巻島くんはわたしの寝込みを襲うことが出来る人にも思えない。
どうせ、覆い被さったはいいけれどリボンを外したあたりで罪悪感に負けて、そのままわたしの隣へ倒れるようにして寝たのだろう。
ベッド脇の机に置いてある箱から出されたコンドームが生々しいなあ、とも思うけれど、なかったらなかったでそれは問題だもんね。
何時から寝たか覚えていない。けど、窓の外はまだ暗くなりきっていないので、わたしの昼寝は成功したと言える。人の家で勝手に寝落ちしただけだけど。この高そうなふっかふかの毛布に包まって夢を見ていただけだけど。
自分が起きたついでに、ふて寝している恋人を起こそうと近付く。都合がいいなあと思いつつ、薄暗い部屋の中でモソモソと、拡げている腕の付け根に頭を乗せる。
「巻島くーん、起きて」
「んん……」
薄く目が開いたのを見て起きてくれるかなーと思っていたら、ぐっと更に距離が近くなる。寝ぼけた巻島くんに抱き寄せられたようで、彼の香りに一瞬頭がくらっとする。やたらといい匂いがする巻島くん。なんの匂いなんだろう。シャンプー? 髪の手入れちゃんとしてそうだし、高いのを使ってるのかしら。そんなことを考えていたら、暖かさと合間ってなんだかボーっとしてきた。
じゃなくて。わたしは、彼を起こそうとしてたんだった。
「まーきしーまくん。起きよー」
「……ヤダ」
起きてた。
寝ぼけてない。この人、起きておるぞ。
やけにはっきりした声に苦笑いしつつ胸に身体を預けると、そっと頭を撫でられる。
「起きてたんだ、ごめんごめん」
「……よっぽど疲れてないと登の隣で熟睡はできねっショ」
「わたしが一緒だと落ち着かないのか、失敬な」
「そういう意味じゃないっつの」
ぱちん、と的確な位置にデコピンを入れてこられる。見事におでこのどまんなか。ただし、全然痛くないけど。
「じゃ、襲おうとして未遂した的な意味?」
「……俺だって健康的な高校生男子なんだからいろいろ察して欲しいっショ」
「健康的……わたしより相当細いけど」
「ガリガリよりやわこい方が気持ちいいからいいだろ」
何が気持ちいいの?と突っ込むのは意地悪なのでやめる。
この体勢だと顔が見えないけれど、既にわたしがクスクス笑っているのを受けてむすっとしているはず。別に怒っているわけではないんだろうけど、拗ねてる、みたいな。
とりあえず、手を伸ばして長い髪を触る。ふわふわ、さらさら。
「別に外したのはリボンだけじゃねえし」
「うん、ヘアピンとってくれてありがと」
ヘアピンをつけたまま寝ると、引っかかってそこだけ鳥の巣みたいになることがある。あと、たまに寝てる時に刺さって痛い。前にこんな風にわたしが寝落ちた時にヘアピンを取り忘れた結果、髪がピンにこんがらがってしまって、こじれにこじれたわたしの髪を巻島くんが解くというひたすら細かい作業をさせてしまったことがある。
そんなことがあったからかどうかはわからないが、わたしを起こさないようにそーっとヘアピンを外している様子を想像して、巻島くん可愛いなあなんて零すとまたデコピンをされた。
と、思ったらおでこにキスをされた。
「……ったく。可愛いのは……くそっ」
「どしたの」
「……可愛いのは登……っショ」
むふっ。
変な笑いを漏らしながら急に起き上がると、ばっか、見んなショ!と言いながら真っ赤な顔でわたしを睨んでから顔の上半分を覆う。
わたしの彼氏って、なんて可愛いんだろう。
「えへへへ」
「なんショ……」
「やっぱ巻島くんかわいいなあ」
「んなわけないショ」
「んなわけあるの」
隠されていない頬に唇を寄せると、しぶしぶ手を避けてくれた。
相変わらず顔赤いし、目は合わせてくれないけど。
ばぁーか、と言いながらにやけ顔で腕を広げる彼の胸に、ダイブ!
かわいいわたしの恋人は、わたしだけのもの。