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イギリスに行くというのは、インターハイが終わってすぐに登に告げた。一番最初に教えたのが彼女だった。
それから、妙に向こうから出掛けようと誘われることが多くなった。勿論、俺が英語の勉強やら向こうにいく準備やらがあるのは重々承知のようで、遠慮がちではあるんだが。
嫌なわけではないし、予定が合えば極力デートしようとは思っていたが、如何せんそういうのを言い出すのは苦手なので、向こうから提案してくれる分にはありがたかった。
そういうわけで、今日は珍しくショッピングモールに来た。俺も登も人混みは避けたい方なのであまりこういうところには来ないのだが、そういえば行く前に服が見たいと電話で零したので、じゃあ、ということでここになった。待ち合わせは俺の方が3分早く着いた。
服選びが見たいと言われたが、そんなに面白いものでもないんだが。
そんなことを思い出しながら適当に目ぼしい服屋に入って、欲しい物を物色する。登は目札をくるくる捲っては俺の方を訝しげな目で見てくる。
自分で言うのもなんだが体型は細い方なので、試着はあまり必要がない。次から次へと抱える服を増やしていく俺の少し後ろから、登がついてくる。

「派手なの、すきだよねえ」

「登はこういうの嫌いっショ?」

「いやあ、嫌いじゃないけど似合わないかな」

「んなことねえよ。似合うと思うっショ」

ここは男女両方のブランド展開をしているので、適当に見繕ってやろうと辺りを見回す。正面切ってのあからさまな否定はしてこないが、俺のセンスにはある程度のやんわりとした拒否感を提じてくるのは薄々感じている。前に泊まりに来た時に貸したパジャマに対して、「うわあ」という感想を貰ったのはよく覚えている。俺のサイズだったので腕やら足やらの長さが足りていなくてブカブカしていて、それも含めて可愛いかったんだが。本人がイマイチ煮え切らない表情を続けていたので言い出せなかった。
まあ、そんななので、控えめに。それでも派手だと言われそうだが、モノクロ基調のバイカラーデザインで、ポイントにカラフルな模様が入ったチュニックが目に入ったのでハンガーを手にして登にぐいっと押し当てる。

「ほら、コレとか。いいかんじっショ」

「あ、意外とかわいい」

意外と、はスルーしてそれも腕に掛ける。ふわりとした生地で出来ているし、登なら着られるだろう。近くにあったストールも目についたので、掴んで乗せる。猫の柄だ。登は猫が好きらしいので丁度いい。
そろそろ会計しようかと財布の入ったポケットに手を入れていると、登が慌てて服の袖を掴んできた。

「え、今の服買ってくれるの? 悪いよそんな」

「気に入らなかったショ?」

「そうじゃないんだけど、いや、値段とか」

「いいっショ。気にすんな」

いやいや、と続けるのを軽く振り払ってカードで支払いをした。彼女にと買った服だけ別で、と頼んでから店員に服を詰めて貰っているのを待つ間、不満そうにしている登の頭に手を乗せる。
それでもむっと口を結んでいるので、ぐりぐりと髪型を崩すように撫でた。

「嫌だった、ショ?」

「そうじゃない、そうじゃないけど。……貢いで貰ってるみたいで、なんか」

「登のためならいくらでも貢いでやるけど」

「そうじゃないって、もう」

冗談(じゃないが)を口にすると、ふっと口元を緩ませてくれたのでほっとした。登には笑っていてくれないと、なんだか落ち着かない自分がいる。
ありがとうございましたと頭を下げる店員から紙袋を二つ貰い、小さい方を彼女の手に握らせる。嬉しいのかなんなのか、少し頬を赤くして膨らませているのが可笑しい。指でつつくと、ぷすっと音を立てて空気が抜ける。
その様子に小さく吹き出していると、つついた方の手を取られて繋がれる。珍しいなと驚きながらも、当然嫌ではないので握り返す。

「ありがと、いっつも」

「俺がしたくてしてるんだから、気にすんなって言ってるショ」

「うん、でもいろんな意味でありがと」

にっと笑顔を見せてから、ぱっと手を離されたので慌てて掴み直す。なんで離すんだよ、全く。放っておくと、フラフラとどこかへ行ってしまわれそうで困る。俺が心配性なのかもしれないが、普段から離れていて、日がな一日どうしているのか検討もつかない登のことは気になって仕方ない。メールで、電話で、今日は何してたかって詳細に尋ねる度に「尽八くんみたいだよ」なんて言われて恥ずかしくなる。これは別にいいんだが、登に対して結構金も使っているような気がする。でも、全部つい、だ。気付いたら、そうしている。
さっきだって今だって、服を選んで手にとったのも、離された手を掴んでしまったのも、つい。
なるべくして、なっているんだと思う。非現実的なことは嫌いな癖に、登に対してだけ夢見がちな自分自身に苦笑する。それだけ好きなんだ。

「何か考え事してた?」

「別に、何も。つーか、手離すなよ」

「えー? 離したら掴んでくれると思ったから」

同意を求められる代わりにぎゅっと俺よりも小さな手に包まれて、じんわり温かくなるのは触られたところだけじゃなかった。俺の隣で微笑む横顔が、太陽みたいに眩しい。
期待されているなら、いくらでも応えてやろう。
今までも、これから先もずっとずっと。




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