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(R15くらいのおはなし)










尽八くんが珍しく、「真剣に話がしたい」なんて言ってきたから身構えたが、とんだ大損だったと発覚したのはすぐだった。今のところ内容は下ネタだ。といっても本人的には真剣らしいので真面目に聴いてあげることにする。まあ、腐っても高校生男子なんてこんなものだろう。いくら普段、天は俺に三物を与えただの、スリーピングなんとかだの豪語して女子から持て囃されていても中身はただの男だ。
結論から言うと、どうやら何か相談したいことがあるということらしい。
尽八くんの部屋のベッドの上でふたりして正座をしているのには、特に意味は無い。

「で、結局なんの相談?」

「アレだ、その……この間巻ちゃんとそういう話になったんだよ」

また巻ちゃんか。わたしは彼のことをそうは呼んでいないけど。
尽八くんの友達でライバルということで、真似して巻ちゃんと言ってみたら尽八くんが嫌がったのでやめた。というか、巻島くんと仲がいいのはわかるけど、どれくらい仲がいいんだか。彼はイギリスに行ってしまったらしいのに、どうやって話しているんだろう。メールなのかな。メールでシモい話題をしていたというのだろうか。それはすごくシュールで笑える。

「巻島くんとなに話してたの」

「いや、その。主に夜の相談だ。俺と登の」

「はあ?」

思わず声が裏返る。何を相談してるんだ全く。
てっきり好みの女の子の話とか、それこそグラビアの話とか、わたしからちょっと遠いところでの話題だろうと予想していたのに。それでこう、非現実的な要求でもしてくるものだとばかり……。
わたしの引く様を気に留める様子もなく、尽八くんは困ったような、考えているような表情で続ける。

「だから、登が……なんか、最近俺に冷たいというか、乗り気じゃないというか、受け身というか」

「ちょっとまって。巻島くんにどこまで話してるの」

「それはまあ、いろいろ……じゃないと相談に乗ってもらえんだろう」

なんてことをしてくれているんだか。次に会う時どういう顔で彼に会えばいいというんだ。どうしようもない。尽八くんの悩みより、わたしにたった今生まれた悩みの方が重要なんじゃないかしら。プライバシーが完全に欠落している。
そして、おそらくもうやめてと言ったところで無駄な気がする。「俺から相談相手を奪わないでくれ」とか頼み込まれて、なあなあになること間違いない。
ので、結局何も反論せずに彼の次の言葉を待った。

「でだ。最近、なんか冷たくないか?」

「気のせいでしょ」

「本当か? 最初の頃はもっと、こう……」

「いいよ言わなくて!」

余計なことまで口走りそうだったので慌てて止める。とんだ辱めをうけるところだよ、全く。
尽八くんは何やら不満があるようだけれど、わたしとしては今まで通りのつもりなんだけどなあ。もしかするとこれが倦怠期というやつだろうか。恋人として付き合ってからはそんなに経っていない気もするけど、それ以前の関係も含めればもうかれこれ10年来くらいになるんじゃないだろうか。
むっと口を結んでいる尽八くんが少しだけこちらへ寄ってくるので、態と後ろへ下がると腰を掴まれて阻止される。もっと他に掴むところがあるだろうに、なんで腰なんだか。

「結局なんなのさ」

「つまりだ……その、」

わたしに触れた手が一度引いて、ぎゅっと手を握られる。ひとつ深呼吸をしてから、尽八くんはわたしの目をしっかり見つめる。

「俺、下手なのか?」

至極真面目に。いつもの、ふざけている表情もうざったい喋り方も一切ない。
勿論わたしは耐えられなくて、咄嗟に俯いた。
堪えるのに必死で肩が震えてしまう。泣いているように見えるのかもしれなくて、尽八くんがおろおろしているのが顔を上げなくてもわかった。
なんていうことを気にしていたんだろう。いっつも、あんなに自信に満ち満ちてるのに。わたしの態度一つであの東堂尽八がこんなふうになってしまうんだと思うと、どうにも可笑しくてたまらない。

「登? どうかしたのか? 腹でも痛いか?」

「ふふ、ふ、お腹は痛くなるかもしれない。笑い堪えるの辛くて」

「わ、笑うなよ! 俺は真剣に……」

言いかけたその口を塞いでやった。きょとんとしている彼のカチューシャをひょいと取り上げて、枕元に置く。固定されていたのをくしゃくしゃ手で払うと、彼の目の前へ簾のように長く、睫毛にぶつかる髪。
わたしの行動にいまいち合点がいかず、不思議そうな視線を受けながらもう一度、彼の両頬に手を添えてキスをする。そのままするすると首を、鎖骨をなぞって、シャツのボタンを開けていく。
既に心なしか頬が赤い気がするけど、ほんと、わたしから迫られるのに弱いなあ。

「な、な、何するんだ」

「いやあ、こういうのも新鮮でしょ?」

「まあ……って、そうじゃない! 俺の質問にも答えてくれ!」

彼の胸を撫でていたらびくっと大きく肩が動くものだから、わたしの方がびっくりした。手を止めることなくベルトを外そうとすると、何がとは言わないが微妙に当たる。全く、なんでそんなに興奮してるというんだか。
拒否はしてこないので、嫌というわけではなさそうだ。もう真っ赤になっているのがなんだか気の毒で、苦笑してしまう。

「下手じゃないよ。だから、心配しないでいつも通りでいいよ」

「既にいつもどおりじゃねーよ、これは!」

彼の口調の乱れる時は、往々にして興奮している時が多い。
まあ、身体って正直だねえ。

「嫌ならやめよっか」

「いっ……嫌じゃ、ない」

こんなにして、断れるはずもないか。ちょっと意地悪してしまったかな、と一度手を離すと、抱き寄せられる。彼の背にそっと手を回すと同時に、自分の胸に違和感。ブラジャーのホックが、ぶちんと外される感覚。
なんだ、もう。やる気満々なんじゃないか。少し見上げると、赤面したままふふん、と鼻をならす尽八くんが居たが、既にそれじゃあかっこ良くもなんともない。それでもわたしは、大好きだからいいんだけど。




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