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お金持ちのお坊ちゃんが紅茶好きなんていうのは作り物の話かと思ったら、そうでもなかった。現に、巻島くんは今も紅茶を飲んでいる。高級そうなカップとソーサーではなく、マグカップだけど。
今日は泊まらせて貰うということで、ふたりで外食してきて巻島くんのお家にお邪魔して、彼が紅茶をわたしにも淹れてきてきてくれた。それはまあ美味しいのだけど、こんな時間に飲んでもいいものかとも思ってしまう。ぼーっとしていたらもう夜の10時だ。こう見えてコーヒーよりもカフェイン含有量が多いらしいので、眠れなくなったら嫌だなあ。結構効いてしまう性質だ。去年、学校祭の前夜に友人たちと眠気覚ましのドリンクを飲んだら、わたしだけ物凄く効いてしまって一睡もできずにハイテンションで朝を迎えて一日過ごしたという過去がある。
そんなことを考えながらもマグカップに口をつけていると、まるで心の声が聞こえていたかのように彼が喋った。

「俺も、普段はこんな時間には飲まねえショ」

「だよね。珍しいなと思った。なんで?」

尋ねると、動きを止めてカップをテーブルへ置いた。指でちょいちょいとわたしのカップを指すので、置けということらしい。半分以上減っているので溢れる心配もない。彼のカップの隣に並べると、さらに手招きをされる。もともと結構近くにいたが、更に寄ってこいと言いたいらしい。
全く、口で言えばいいのに。だからというかなんというか、ちょっと悪戯してあげようと飛びつくと、そのまま後ろに倒れられた。床なので痛くなかったかしらと心配したが、用意周到に頭の下にクッションが置いてあった。というか、わたしが押し倒したみたいになっていて少し微妙な気分になる。

「今夜は登がいるから、眠くなったら嫌っショ」

「え、紅茶になんか盛った?」

「そこまでしねえよ」

クハッと、いつも通りに口から息を漏らして笑う。わたしは少々苦笑いだが、彼の様子を見る限り、想像しているようなことはしていないらしい。
床に仰向けになっている彼の顔の両横に立てている腕が疲れてきたので重力に身を任せる。重いかなあとも思ったが、巻島くんはふんわりと細い腕で抱きしめてくれた。

「ふつーに、登と一緒なのに早く寝ちまったら、もったいねえと思っただけショ」

「えー、わたしカフェイン凄い効いちゃうんだけど」

「奇遇だな、俺もっショ」

わたしの髪を撫でて、にやっといつも通りに笑う。
今度は手が頬に触れるので、目を瞑ると唇にやんわりとした感触。それから、そこを割ってぬるりと舌が入り込んでくる。巻島くんは、キスがうまいと思う。比べられる対象がないので憶測にしか過ぎないけれど、いつもキスが終わるとわたしだけが息が上がっていて彼は涼しい顔をしているのだ。それが、なんとなく悔しい。
今日も今日とて、それは変わらない。口を離した後にぺろりと唇を舌先で舐められると、ぞくっと背筋が震えた。
短く息を吐いていると、巻島くんは急に身体を引こうとした。でもわたしが上にいるので叶わず、変な動き方をしてどうにかしようとしている。

「……やべ」

「うわあ、これだけで」

「しょうがねえだろ」

理由はもちろん、わかっていた。当たってるし。
でもまだそんなにそういう気分でもないので起き上がって手を伸ばすと、渋々掴んで巻島くんも起き上がる。そして思いっきり前かがみになっている。

「それ格好わるいんだけど」

「誰のせいっショ」

「わたしのせいなの?」

くすくす笑っていると、ほのかに赤い顔をふいっと背けられた。スイッチが入ってしまえばものすごいのに、その前は意外とシャイである。
飲みかけていた紅茶のカップを取ろうとすると、その手を掴まれたので何かと彼の方を向く。

「しねえのかよ」

「紅茶冷めちゃうよ」

「俺は今、登のこと抱きたいショ」

ゆるく抱き寄せられる。別に嫌じゃないけど、ないけども。結局こうなるんじゃん!
今日親いないし、というのがよくあるこの手の泊めた側の理由だが、本当に不在である。でも、妹さんは居るじゃあないか。さっき会ったし。大分仲良くなって名前で呼び合えるるようになって嬉しいけど、確か部屋は隣じゃなかったかしら、と。いくら広いし寝室も離れているからといって、それはどうなんだろう。大凡わたしが大変なのだ。前に彼の服を口に突っ込まれたことがあったがアレは相当苦しかった。できればああいうのはしたくないんだけどなあ。

「何心配してるのか知らねえけど、妹なら友達ンとこ泊まりに行ったショ」

「そんな都合のいいことあるの……」

「もっと喜べよ」

困り眉が更に、ちょっとだけ下がる。わたしも困惑している。
彼曰く、今このやたらと広い家にはわたしと巻島くんしか居ないらしい。外には彼の家の飼い犬がいるけど。
そんなタイミングのいいことってあるんだ。嘘じゃないよな、流石に。そんな羞恥プレイはごめんだ。
わたしが疑っているのを見て、巻島くんはぱっと長い腕を広げた。

「疑うんなら家中確かめてきてもいいっショ」

「わかった、わかったから」

そこまでいうなら本当だろうと手を振って応じると、彼の腕はすとんと落ちたと思うと
すぐにわたしにまとわりつく。
このちょっと間抜けなやりとりをしている間に衝動も収まったんじゃないかとも考えたがそんなことはなかった。男子はわかりやすくて大変だなあ。
やっぱりもったいないので紅茶を飲んでしまおうとカップを手に取る。今度は止められなかった。既にぬるくなってしまっていた。

「登がそれ飲んだらするっショ」

「もうちょっとムードとか作ってよ!」

「そういうのは後からついてくんだろ」

「はあ……あと、ここは嫌だよ床はいたいから」

「わかってるショ」

わたしがゆっくり飲むのを待ちながらも手が胸のあたりをいったりきたりしているので、待ちきれないのがよくわかる。それでも口では急かしてこない。
頭にキスを何度も落とされるけれど、やっぱり何も言ってこない。
漸く飲み終わってカップを置くと、耳元で「好きっショ」と囁いてくる。
巻島くんのそういうところ、本当にずるいと思う。





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