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登先輩は俺の恋人だ。今は、コーヒー屋の奥のテーブルで随分積み重なっている課題のプリントをスラスラこなしている。そういえば、この間福富先輩に用があって3年生の階に行った時、実力テストの成績が張り出されていた。そこの上位者に名前があったから、登先輩は頭がいいらしい。といっても、今やっているのは1年生の問題。
つまり、俺の課題。

「どうですか、簡単ですか」

笑いかけながら覗き込むと、右頬をつままれる。登先輩は口元を引きつらせながらシャープペンをくるくる回す。

「簡単かもしれないけど面倒くさい」

「でも俺のためですよ」

「賭けに負けたから仕方なくですー」

ふう、とため息を吐く姿もなんだか可愛らしく思えるのは俺がおかしいんだろうか。好きになったのはいつだったか、いまいち覚えていない。出会ったのは、いつだっけ。入学してきて割とすぐだった気もする。
ところで賭けというのは、今日の新開先輩のパワーバーの味は何か、というもの。俺はいつものチョコレートとバナナで、登先輩は違う味と言った。
結果、軍配は俺に上がったので課題を手伝ってもらっている。なんでもひとつお願いをきいてくれるというのを賭けた時にお互いに約束した。正直、もっといいお願いもあったんだろうなぁと後悔もするけれど、単位が貰えないのは大変だ。そんなこんなで、今は社会の歴史の課題をやっている。俺は世界史なんてあんまり興味がないけれど、登先輩はさっきから教科書も見ずにペンを走らせていた。今は俺の頬をつまんでいるけど。

「せんぱい、いたいれすよ」

「だって真波くんさっきから全然やってないよね?」

不満そうに眉を寄せてから、手を離してくれた。もうちょっとつままれたままでもよかったんだけど、俺の頬が赤くなる前にやめてくれたんだろう。なんだかんだで俺を困らせることはしてこない。むしろ、いつも困らせているのは俺の方だ。

「登先輩見てるのに忙しかったんですよ」

「わたしの方見てるくらいだったらローマ帝国の皇帝を覚えなさい」

世の女子というのはこういう台詞に喜んだり、外でそっと肩を抱いたりしたら喜ぶものだと興味もないけど見たドラマで見た気がするが、登先輩はうんともすんとも。ときめいてくれない。いろいろ試している中で一番喜んでくれたのは、一日何個限定とかいうシュークリームが有名な店を見つけて誘った時だ。それって、俺に対して喜んでくれていたんじゃなくてシュークリームという甘い誘惑に負けていただけじゃないだろうか。
頬杖をついて大帝国の皇帝の名前を次々記入していく姿はいかにも勉強が出来そうな雰囲気。でも、たしか目指している大学は理系の学部とか言ってたなあ。

「そういえば真波くんってかわいい幼馴染いるよね」

「委員長ですか」

「そう。委員長ちゃん。あの子と付きあおうとは思わなかったの」

「そんなね、先輩。家が隣同士のひとが恋人同士になるなんて、月9ドラマか少女漫画だけですよ」

俺があっけらかんと告げると、プリントばかりを見下ろしてはずの目がぱっちり丸く見開かれてこちらを射止める。びっくりしているように見える。そんな変なことを言っただろうか。思ったことをそのまま口にしただけなんだけど。
ずっと持っていたシャープペンを置いて、空になってしまったプラスチックのカップを手持ち無沙汰にいじり始めた。登先輩が何かを意味もなく触り始めるのは、たまにある。大体、俺に不満があるけれどそれが素直に言えない時だ。

「言いたいことがあるならどうぞ」

「いや……なんか、すごい、夢をぶちこわされた気分。真波くんみたいなイケメンが言うと破壊力高いよそれ」

よくよく見ると、先輩はなんだかむすっとしている。拗ねている? 違うな、ちょっとしょんぼりしているのを隠そうとして怒ったみたいに見せかけてるだけ。
楽しくなってきて、にっこり笑ってみると軽く睨まれてしまった。嫌だなあ先輩、そんなことしても無駄だってわかってるはずなのに。

「大丈夫ですよ、先輩のことは少女漫画みたいに扱いますから」

「その言い方が既に、ちょっとバカにしてるよね?」

「してませんよ、先輩大好きですし」

山の次に。と冗談を付け足すと、ふっと緩んだ笑いを零してくれたので内心ほっとする。登先輩は実は、俺と居るときは結構照れている時が多いんじゃないかと勝手に決めつけている。確信とそうだといいな、というのが半々で混ざっている。
機嫌が少し直ってくれたであろう先輩はプラスチックのカップを俺に渡すと、もう一度シャープペンを握りなおす。

「もう1杯飲むから頼んできて」

「なににするんですか」

「シングルベンティキャラメルアーモンドヘーゼルナッツモカホワイトモカツーパーセントチョコチップエキストラホイップキャラメルソースチョコソースジェリーバニラクリームフラペチーノ」

全く噛まずに言い切って、よろしくと言わんばかりに笑顔で財布を渡された。
まあ1回で覚えられるはずもなく、期間限定のフラペチーノをふたつ買って持ってくると、それは奢ってあげるから少しは課題やりなね。と嬉しそうにストローを銜えていた。




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