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ワイの彼女サンは世界一かわええ。と、勝手に思っている。
この間直接相手に言ってみたら、恥ずかしいからやめてとすごく照れられてちょっとだけ怒られてしまった。褒めているのに何故だろう。
今日はそんな彼女サンである登ちゃんが休みの日にわざわざこっちまで出てきてくれたので、デートだと張り切っていた。たまには自転車じゃなくて電車で、という話になって、ちょっと遠くまで行ける切符を買って、空いている車両を選んで座った。
のに、なんでこいつまでおるんや。

「今泉くんはこれから買い物とか?」

「はい。ちょっと用事がありまして」

このスカシた声、無駄にでかい身長、間違いなく学校で毎日会っている同じ部活の今泉俊輔だった。どうしてせっかくの休日にまでこいつと顔を合わせないとならないのか意味がわからない。別に心底嫌いなわけではないし、チームメイトだが、こいつはなにかとワイにつっかかってくる。
しかし、今日に限ってはあまり大声で文句は言えなかった。何故かというと、スカシに話かけたのが彼女サンやったから。
アイツは何を聞いてるか知らないが今日もイヤホンで音楽を聞いていて、ワイは全く存在に気付いていなかったのだが隣の同行者が気付いて声を掛けてしまったのだ。スカシがちょっと嬉しそうにしとったの見逃してへんからな。こいつあの時絶対喜びよった。
それでもって、スカシは俺と反対側の隣に座っている。
こいつが彼女サンの傍にいるだけでも気に食わんのに、まして隣。そもそも、居られると手すら繋げない。

「なーあ、登ちゃん」

「どした」

「ワイとデート嫌やったん?」

「そんなわけないじゃん」

何いってんのーと頭をぐしゃぐしゃ撫でられて、複雑な気持ちになる。年下扱いされるのは嫌いじゃないし、登ちゃんに頭をわしゃわしゃっとされるのはむしろ好きだ。でも、スカシがいるところでさせるのは正直恥ずかしい。現に、チラっとこちらを見てフッと笑いやがった。つーか、登ちゃんの隣はワイの特等席やのに! 

「佳月先輩」

「今度は今泉くんか。どした」

「赤いのが妬いてるみたいですけどいいんすか」

ドヤ顔でそんなことを言って、バカにしたように首をかしげる。こいつほんまにムカつくわ!
登ちゃんは登ちゃんで、そうかな? と大して気に留めていない。妬いているとバレバレなのも格好が悪いから、いいといえばいいのだが。
もしかしてもしかすると、コイツはワイに気を遣ってくれたのかもしれないが、そうならそもそも空気を読んで挨拶だけして立ち去るとかいろいろあるだろう!
イライラが始まると止まらなくなって、なんとか気にしないよう流れていく景色をひたすら注視していたが、結局あんまり効果はなかった。こうなったら何か一言文句でもとスカシの方に身を乗り出すと、登ちゃんはぎゅっと、ワイの手を握った。

「鳴子くん、今日天気良くてよかったね」

「えっ。あ、せやなあ。てかワイ、晴れ男やし、当然やわ!」

「じゃあ今年のインターハイもめちゃくちゃ快晴だろうね。応援いくから! わたし箱学の生徒だけど」

総北の応援してたらメンバー以外の箱学生から干されそうだけどまあいいか。そう言って困ったように笑う。
登ちゃんの笑顔はほんまに女神サマや。めっちゃ輝いとる。ワイが一目惚れしてもうただけある。
自分の顔がぽーっと熱くなって、頭までぼーっとしてきて、ハッとする。あかんあかん、ここは外なんやから自制せな。
今気付いたが、柔らかくてふわふわしている登ちゃんの手が、イライラしていた気持ちをどこかにふっ飛ばしていた。さっきからもう、彼女サンかわええなあとしか思ってなかったし、スカシがいたことも忘れてしまうところだった。
もしかして、ワイが苛ついているのがわかって、普段人気があるところで手も繋がない彼女サンがわざわざこんなことをしてくれたんだろうか。いや、絶対そうだ。

「なんか、すまん、登ちゃん……」

「謝らなくていいよ。ね、今泉くん」

「そうすね。というかこいつほんとわかりやすいですね」

「お前は黙っとれスカシ!」

ワイらのやりとりを楽しそうにきいている登ちゃん。ただの口喧嘩だが、こういうのを見ているのは好きらしい。学校一緒やったらこんなん毎日聞かせてあげられるのになあ。遠いんやもん。
スカシもまあムカつくのはどうしようもないし、こういう言い方をするとワイが自分でモヤっとはするんだが、コイツも絶対登ちゃんのことを気に入っている。いやだから、なんていうか、ニンゲンとしてっちゅう意味で。
おまけに小野田くんの従姉やし、ほんま、なんでこっちの学校来なかったんか不思議や。
前に聞いたら、行きたい大学の勉強を本気でやりたいから寮がある箱学にしたと言っていたが。あと、同学年に知り合いがいるからとか。しかもその知り合いが幼馴染で、おまけに男だと聞いた日には気が気じゃなかった。が、その辺はちゃんと弁解を受けている。しかし、なんだかんだ毎日メールを送ってしまう。うざがられたら嫌だなあとは警戒しているが、登ちゃんもせっせと毎日のことを報告してくれるので安心している。
ふと横を見ると、登ちゃんがにっこり笑いかけてくれる。あーほんまかわええ!たまらん!今すぐぎゅってしたくなってまうけどここ電車やしスカシもおるから無理なのがめっちゃもどかしい!
むむっと口を結んでいると、登ちゃんはケラケラ笑い出し、スカシは咳払いを一回だけしてからワイの方をジト目で見てくる。

「おい鳴子」

「なんやスカシ」

「全部声に出てるぞ」

「ふぉあっ!?」

恥ずかしいなあもー、と笑い続ける登ちゃんの横で、ワイは真っ赤になって絶対に誰にも言うなよ!とスカシに怒鳴りつけた。それでも目的地に着くまで、さっき繋いだ手が離れることはなかった。





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