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(アニペダ21話Cパートの続きのイメージ)










「何が秘密なの」

俺の「秘密だ」という言葉に返すように降ってきた声は横に移動して、俺の隣へ落ち着く。短パンから覗いている太ももが眩しい、まぶしすぎるぞ。

「すまん巻ちゃん、今日は切るぞ。ちゃんと歯を磨いて夜更かしせずに寝るんだぞ!」

電話の向こうの相手の反応は、明らかに察しているというか、あーはいはいといった感じで、俺が通話終了ボタンに指を置く前に向こうから切れる。
さて、と隣に向き直ると、椅子の上で足を抱え、心なしかしょんぼりとした幼馴染がそこにいた。というかその格好、やはり足が見えすぎではないだろうか。

「ごめん、邪魔しちゃったなら謝る」

「邪魔? 何がだ」

「巻島くんと電話してたんだね、空気読めなかった」

さぞ申し訳なさそうに俯く登。その頭に手を乗せるとふっと少し上を向いたので、笑ってみせる。
昔からそう、登は気にしすぎる。そこがいいとこでもあり悪いところだ。しかし、どうやらこんなに素直にしょんぼりとしている姿は珍しいらしく、見せるのは家族の前か俺の前か、らしい。それを思うと少し照れくさいというか、喜ばしくて自然に顔が綻んでしまう。

「なあに、気にするな。巻ちゃんも気にしていないから大丈夫だぞ」

「そうなの?」

「むしろこの間は巻ちゃんに、俺と電話するより登と話してこいと言われてしまったくらいだ」

事実、巻ちゃんは俺たちの関係を結構気遣ってくれている。それを言われたのは先日少し喧嘩してしまったと告げた時だ。大したものではなかったし、もう仲直りはした後だったが。
しかし、登と二人きりなのはいいが、ここじゃいつ誰が来るかもわからんから何も出来ないな。

「少し外でも散歩しに行くか」

立ち上がり登の手を取る。必然的な上目遣いが俺を捉えてドキッとしたが、平静を保つことに専念する。
そういえば、ここ最近ご無沙汰だった。しょうがない、これからインターハイも始まるし、練習づくめだったから。
元運動部のせいかそうじゃないかは知らないが、登はその辺もよくわかってくれていて必要以上に俺に構ってもらおうともしなかった。たまに自転車競技部を覗きに来ていたり、葦木場の洗濯物を手伝っているのはわかったが、俺が話しかける前にいなくなってしまっていた。なんとなくもどかしかった。授業の間も、クラスが違うし。
そういえば俺が一人で居るときに向こうから話しかけてきてくれるのも久々なんじゃないか。
外に出るとむわっと、初夏の熱風が俺たちを煽った。寮の近くだと手を繋ぐこともできない。この時ばかりは自分にファンクラブなどあることが煩わしい。

「もう夏だね」

「そうだな。最後の夏が始まる」

「いいなあ。わたしも走りたかった」

苦笑う登が少し先に歩き空に向かって腕を伸ばす。彼女の背を見ながら、少々言葉選びを誤ったと口を結ぶ。登は箱学に転校してくるまでは、2年生にして陸上部のエースだった。リレーのアンカーだった。学校を優勝に導いたヒーローだった。なので、てっきりこちらでも部活に入るのかと思ったが、彼女はそうしなかった。
おそらく、前の学校の仲間のことが忘れられなかったのだろう。今年こそ3年生で、最後の夏……そこからの転校だ。家の事情とはいえ、悔しくて仕方なかった彼女の気持ちを知らないわけもない。散々泣いて喚いて、最近ようやく落ち着いて勉強に専念しているということを一番分かっているはずの俺が彼女を傷つけてどうするというのだ。

「いいよ、もう吹っ切れてるから。尽八くんの気にすることじゃないよ」

「しかし……すまんな。空気を読めていないのは俺の方だ」

「今年は自転車競技部応援しにいくからいいって言ってるでしょ」

巻島くんにも応援するって言ったし。と拳を握る登に、巻ちゃんは学校が違うではないか。と返すと、両方応援するんだ。とにっこり笑う。困るな、巻ちゃんが惚れてしまったら困る。
適当に歩いていたら公園まで来てしまったようだ。登が入っていくのでついていく。

「クライマー対決楽しみだな」

「俺と巻ちゃんの高校最後の、決着だ」

「いいライバルがいてよかったね」

「ああ」

てっきりベンチに座ると思っていたが、登は大きな土管を横に倒したみたいな遊具の中へ入っていったので、俺も追いかける。暗いが、急にセミの声が少しだけ遠くなって、とても静かに感じた。せっかくなので、わざとらしく密着して座る。

「こういう狭いところ落ち着くよね」

「俺は落ち着かんぞ、最近してないし」

「眠れる森の美形とか自分で言いつつ中身はただの高校生だよねほんと」

「こんなところに連れてくるのが悪いんだ」

ムードもへったくれもないセリフが口から出てくるが、どうしようもない。事実だ。
ぐいっと腕を引っ張って、膝の上へくるよう無言で促してみると、頭ぶっつけないかなあとぶつくさ呟きながらも乗っかってくれた。こんなところでバカみたいだが、じわじわ興奮してきている自分が情けない。

「今えろいこと考えたでしょ」

「かっ 考えてない」

「声裏返ったよ眠れる森の美形」

自ら名乗る異名を嫌味のように繰り返されると怒りたい気持ちよりも恥ずかしさが先行する。ニヤニヤしながら俺の頭を包み込む登。完全に胸が当たっている。このままだとよろしくない。しかし、引き離そうにも狭くて、これはどうしたらいいんだろう。

「尽八くん」

「何だ」

「ちゃんと、一番に応援するよ」

瞬く間もなく、そのまま口付けられる。
ぽかん、と口を開けた俺を見て、登は優しく微笑む。
たまらなくなって立ち上がろうとした俺は興奮していたせいでここがどこかすっかり忘れていて、思い切り頭を打った。ケラケラ腹を抱える登に、一言文句を告げようにも、痛みで涙目だわ前かがみだわで全く格好がつかない。この後ろ頭は明日絶対にコブになるだろう。
それでも、頭をさすってくれるこの大切な恋人がきっかけでできたコブならばその痛みすら甘いものだな、なんて。さすがの俺でも気障ったらしすぎるか。
口に出ていたそれを聞いた登が頬を染めていたのは、薄暗くて見えなかったということにしておいてやろう。




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