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「なん、か……こ、このベッドさァギシギシ音しすぎじゃナァイ?」
なんでそういうこと言っちゃうかな、大学生にもなって。気になって気になって仕方なくなるじゃない。とはいってもつい数ヶ月前まで靖友くんもわたしも高校生だったし、あまり言えたことでもないか。
少し睨むと、靖友くんはムッと口を結んだ。
明らかに動揺してる。緊張もしてるのかもしれない。
なんで部屋に入る前と態度が逆転しているんだろう。
ここで状況をおさらいすると、とりあえず大雑把に言って荒北さんがムラムラしてどうしようもなくなった。らしい。
やめようと言ったのに大丈夫だって、と口を尖らせなが手をちょっと乱暴に握り、おろおろするわたしを他所にズンズン入っていく。手を引かれているのでそのままついていって、靖友くんは随分と手慣れた動作であれこれやってエレベーターへと向かった。
その時点でわたしはなんだか気分が上がらなかったのだけれど、ランプが点滅している部屋へ入った途端に彼がそわそわキョロキョロ落ち着かない様子でとりあえずベッドに腰掛けて、先程のセリフ。なんか、全然ときめきもドキドキもないんだけど!
なんなんだろう。わたしもなんなんだろう。部屋に入るなりキスでもしてくれば許したんだろうか。
「なんか、機嫌悪いか?」
「そう見えるならそうかも」
「ンだよ、そんなに嫌なら言えよ……」
「別にそうじゃないけどさあ」
あーやだ、わたし今すごい面倒な感じになってる。そんなつもりもないのに。いや、少しあるかも。
とりあえず靖友くんの隣に座ると、珍しくピトッとくっついてきた。やっぱりムラムラはしてるのか。
「なー登。していいならしたいんだけどォ……」
「え、シャワーは」
「後で一緒に入る」
そう言いながら抱きしめてきて、耳を噛まれる。靖友くんは、よく噛んでくる。たまに本気で歯が突き刺さってきて、血が出て、パニックになりながら泣いて靖友くんをめちゃくちゃ困らせたこともある。もう慣れて、痛いなあくらいにしか思わなくなってしまったのはいいように絆されてる気もする。
ゆっくり首筋に舌を添わせながら、ブラウスのボタンをはずしてこようとしたので、なんとなくその手を掴んで止めると、首の後ろから引き寄せられて口を塞がれる。指を絡めて、べたべたな甘ったるいキスをする。
「っは……なァ、俺、なんかした?」
「何も……って言ったら嘘になるから言うけど、もーいちいちこういうとこくる度ビクビクしないでよ、部屋入ってから」
呼吸を整えながら吐き出すと、靖友くんの反応はちょっと意外なものだった。うるせェとか言って強引に押し倒してくるかなーなんて思っていたけれど、何故か彼は真っ赤な顔で俯いてしまった。そんな、気に障ることを言ったかしら。
「え、え? なんかごめん」
「……っ、ダロ……」
「ごめん、聞こえなかったんですが」
「こういうとこ連れてくっと、っかにもヤリ目的ですみてェな感じで嫌だろ!」
「え、ヤリ目的でしょ?」
「お前、俺がそういう意味で言ってないってわかってて言ってんでしょオ!?」
ばれてた。というか、思ったより可愛いところがあるみたいで、笑えてしまった。赤面したまま慌てて捲し立ててくる様子は、普段とのギャップがすごい。
あーもう!とかくそっ!とか散々大声でぼやいた後むすっとした顔のまま強く抱きしめられて、わたしが痛いよ、と呟いても離してくれそうになかった。
「確かに俺は登にムラムラするし、登とすんの大好きだけど、それだけで付き合ってるわけじゃねェから」
「はいはい」
「で、デートの途中でヤりたくなって悪ィと思ってるけど……」
「そうだね」
「おっ、俺は登と一緒にいるだけで……楽しいけどォ……今日はなんかムラムラしちまったんだヨ……ごめん」
最終的に、飼い主に怒られてしょんぼりする犬のようになってしまった。でも相変わらず腕の力は凄くて、細いのにどこからそんな力が湧いてくるのか不思議でならない。
しかし、こんなに深刻に、且つ彼の胸の内を言わせて謝らせる程にわたしの機嫌は悪く見えたのだろうか。そう思うと今度はこっちがものすごく申し訳なくなってきた。
とりあえず彼の首の後ろに腕を回して抱きしめ返す。
「うん、ごめん。わたしの方こそなんかごめん。靖友くんの気持ちはわかってるつもりだよ」
「……おう」
「だからとりあえず、セックスして仲直りしよっか」
なるべくいつものトーンで、彼の髪を両手でくしゃっと優しく掴んでおでこにキスなんてしてみると、もっとムードとか大事にしろヨ!と普段全くムードを気にしない彼氏にトマトみたいな色の顔で言われてしまったので、今度は猫耳でもつけて誘ってみよう。そういうの好きかどうかわからないけど、確か猫派って聞いたのはいつだったかなあと視線を泳がせると、余所見してんじゃねェよと頭をがっしり掴まれて強引にキスをされた。