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(主人公は巻ちゃんの彼女です)










うっかり気を抜いていた。
いつも通りそこには黒、または紺色が見えると思っていたのに、俺の目の前に広がっているのはなんとまあ可愛らしいパステルな緑色のドットだった。

「かっ!? なっ!? す、すまん見てしまった!!」

「はい? あ、ごめんスパッツ履き忘れてた」

「何故お前まで謝るんだ!」

「いやぁお目汚しすみませんっていう」

突風がスカートを下から上へ捲り上げるのを抑えて阻止しようともせず、照れた様子もなく、これである。俺も俺で、いつも通りスパッツ着用だと思いパンツが見えるぞーとどやしていた結果、本当に見えてしまったのだ。そのおかげで食べかけのツナとレタスのサンドイッチがひとつお亡くなりになった。

「登よ、お前なあ、もう少し女のコらしくしたまえよ」

「やだよ、なんで尽八くんの前で女の子ぶらないといけないの?」

「いいではないか、少しくらい」

「わたしが尽八くんの前でぶりっこなんてした日にはファンクラブの子達から大顰蹙買うよ」

悪態をつきながらがっつり間を空け隣に座ってメロンパンを頬張り、砂糖が頬に付き放題の登。学校でなければハンカチでその砂糖を拭ってやるのだが、彼女の言うことも一理あり、幼馴染といえどもそんなことをしたところをファンクラブ女子に見られたら登がどうなるかわからない(といっても登はいろんな意味で強いから大丈夫だとは思うがことが起こると面倒だ)から、放置せざるをえない。というか必要以上に間を空けて座られたことに少しだけ傷ついた、というのは内緒なのだが。この間新開と昼食を共にしていた時はもっと近かったぞ、けしからん。そもそも登の好きなヤツは、

「巻ちゃんだったらどうするんだ、さっきみたいに風がふいて……」

「えっへへ、この下着ねー巻島くんに選んでもらったやつなんだよ」

野球ボールを投げたのにテニスラケットで打ち返されて、それが頭に当たったような感覚に陥った。なんだその謎ノロケ情報は。くっつくならさっさとくっついてしまえばいいのに、インターハイがあるからと終了まで付き合わないと約束したらしい。登が巻ちゃんに会いに行っている(巻ちゃんがこちらにあまり来ないのは性格的なものもあるし、登が寮に住んでいるからだろう)というのはよく知っているし、巻ちゃんも電話を掛けた時にちょこちょこ登のことを聞いてくるし、少なくとも俺から見れば付き合っているようにしか見えなかった。ただ、付き合っていないということで謎の均衡は保っているんだろう、多分。その辺は二人のことであり、いくら幼馴染と良きライバルであり親友のことだからといって詳しく話も聞かずに把握できるわけでもない。

「というか、巻ちゃんそういう無難なの選ぶのか。そこが意外だな」

「無難? なのかな。わからないけど、サイズの問題もあるかなぁ」

「あぁなるほど、上下セットというやつだな……って、俺に何を言わせるんだ」

「いいじゃん、尽八くんお姉ちゃんいるし、そのルックスならその発言でも変態感はないよ」

「本当に歯に衣着せぬ物言いをするやつだよお前は」

俺の前ではな、と息を吐くと悪びれもなく今度はアンドーナツを頬張っていた。全く、糖分ばかり摂りすぎていて見ていて心配になる食べっぷりだ。飲んでいるものは荒北に勧められてハマっているのか、最近いつもベプシだし。そのくせ頭と身体を使っているから大丈夫! と、見れば本当にどちらも大丈夫そうなので何も言えないのだが。

「話は戻るけど、結構大きくなるとかわいいの全然なくて、悲しいんだよねえ」

「それは俺に言うんじゃなくてて女友だちか若しくは俺の姉さんと話してくれないか頼むから」

「いやー女の子とこれ話すとねー自慢? とかジトい目で言われて辛いのよ」

「はあ、そんなものか……というか、巻ちゃんは喜んだのではないか?」

また俺はどうでもいいことを思い出して、はたまたえらい質問をぶっつけてしまったと言ってから後悔したが登が今度はクリームパンを開けながら首を傾げていたので、少し迷ってから自身の胸板をトントンと叩いて見せると、ああ、と理解した後すぐ堪えきれないようにぷっと吹き出した。

「あーのね、すっごい笑っちゃったんだけど……これ言ったって言わないでね絶対怒られるから」

「約束しよう」

なんとなく察しはつかないでもない。巻ちゃんがグラビア鑑賞が趣味なのは知っているし、俺は登がそれに劣らぬなかなかのサイズだというのも不可抗力で知ってしまっている。

「巻島くんったらわたしの胸に抱きついて『スゲーっショ!!ドリームっショ!!』ってめちゃくちゃ感動してたんだよね、もー可愛くて」

「巻ちゃん……ふっ……ワッハッハ、それは笑えるな!」

なんだか、容易に想像ができてしまうあたり、さすが俺というか、巻ちゃんもやはり巨乳が好きなのかとか、いろいろ思って結局笑いが堪えられなかった。前に、やはり巨乳が好きなのだろうとからかった時に別に俺は大きさなんて気にしねえショなんて言っていたがそんなわけあるはずもなく、本音は大きいならその方がいいということだ。男なんて変な性癖の奴以外はそんなもんで、実にわかりやすいものである。俺もその「そんなもん」に含まれているのは否定しない。
相変わらず登はケラケラと思い出し笑いを続けているがふと気付いた。上下セットということはブラジャーの模様まで見てしまったようなものなのか。そう思うとなんだか気まずくなってきた。それから、もう一つの可能性が浮かんで口元が勝手に変な笑いを湛えてしまっている。そういえば金曜日だった。

「なあ、登」

「なに?」

「今日は巻ちゃんに会いに行くのか?」

「うん!」

その輝かしい満面の笑みはそれはもう嬉しそうなのだが、ああつまりそういうことなんだなといろいろ察して多分俺は悟りを開いたみたいな表情が顔に張り付いていたことだろう。そうだ、高校生だし、仕方ないよな。でも何故だろう、何か胸の奥でモヤつくのは嫉妬なのだろうか。いやどちらかというと娘が貰われてしまった父親あたりの感情か。俺に娘が居たことなどないからわからないのだが。
今度、巻ちゃんに感想を聞いてみようか。怒られるか、呆れられるか、着信拒否にはされたくないが。

……ああ、ならんよ巻ちゃん。もしものことがあったら、登のご両親だけではなく俺にも挨拶をしてほしいね。




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