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「巻島くんってほんと不思議な髪」

でも綺麗だね、と微笑む。するすると髪を通り抜けていく手櫛とドライヤーの温風が心地よくて、思わず目を細める。
登が来たとき、丁度変な時間に入っていた風呂上がりで髪を乾かす間(結構かかるので)待たせるのもなんなので家に上げた。そしたらびしょ濡れの俺の髪を見て乾かしてもいい? なんて言ってきたものだから二つ返事で頷いたのだった。

「……なんか、眠くなるっショ」

ごうごうとドライヤーは音を立てていて、それは決して静かなものではないのに温まった身体と、リラックス出来るこの空間が眠気を誘っていた。かなり小声だったので音に邪魔されて聞こえていないだろうなと思っていたが、どうやら聞こえていたようだ。

「寝てもいいよ、毎日遅くまで英語の勉強してるんでしょ」

「……寝ちまったら、せっかく休みの日にお前を呼んだ意味なくなるっショ」

「なにそれ、意味深?」

「そうじゃなくて」

女子という生き物は意外と下ネタが鋭かったりして、ちょこちょここうしてなんとなくふっかけてくるが、俺は決してそういう意味合いで部屋に呼んだわけではない。
自分の髪に触れて大方乾いたなあと確認してから、登のドライヤーを持つ右手首を掴んだ。

「もーいい。髪乾かされてるだけじゃ時間もったいないショ」

「そー? わたしは楽しいけど」

そう言いつつもにっと笑ってからカチッとスイッチを切る。テーブルにドライヤーを置いて、少し離れた位置にあるコンセントを抜くのに四つん這いになると、まあ下着が見えるわけもなく、いつものスパッツが見えた。それでも前は私服で全くスカートを着てくれなかった登が俺の選んだワンピースを着ているということは喜ばしいことだ。但し、仕草はなんとなく女子らしくないのだが、そこも彼女らしいところなので特に気にも留めなかった。しかし、隙だらけなのは問題である。
学校も違うし、秋からは遠距離だし、情けないが俺は不安でいっぱいだ。

「登」

「はい?」

「俺のこと好きか」

「なに、急に。巻島くんのこと好きじゃなかったらお付き合いしてませんけど」

「そうじゃなくて」

苦笑いする登を目の前に、どうもうまく言えなくて言葉に詰まり頭を押さえる。そのまま自身の髪を掴むと、根元の方はまだ少し湿っていた。
少し俯きため息を吐くと、ごつんと額をぶっつけられる。難しい角度からきたなあと思いながらも、未だに顔が近いとドキドキしてしまう。登の長いまつ毛がぶつかってしまいそうなほど、ちかい。

「なにをうじうじしてるのか知らないけど、わたしは巻島くんのことだいすきだよ」

「……っショ」

「だからそんなに不安がらないで。わたしだって不安だし、さみしいよ」

「……そうだな」

大分慣れてきてからたまに伺わせるちょっぴりとんがった台詞を言う時は強がっている時だ。そう分かるのには少しかかって、俺も鋭い言葉を返したことがあったが、今ではすぐに分かる。
そんな無理して笑わせてごめんなって、言いたかった。でも言葉にならなくて、代わりに身体を引き寄せると、相手は俺の肩に顎を乗せるように首元に顔を埋めた。口下手すぎて、恋人にまで言葉が足りなくなる自分に腹が立ったが、登はそんなところも含めて巻島くんだよ。と柔らかく微笑んでくれたのを思い出す。

「巻島くんからくっついてくれるの珍しいね」

「そういう気分の時もあるっショ」

「大体めちゃくちゃテンション高い時か、ムラムラしてる時か、ちょっとしょんぼりしてる時かだけど、今は最後のかな」

顔は見えないけれど、困り笑いを浮かべている声色だった。子供をあやすようにそっと背中をやさしく摩る手が上へずれて再び髪に触る。俺もそっと、頭を撫でた。

「あんまりしょんぼりしないで、最後は楽しく過ごそうって思ってるのにねえ」

「最後とか言うな」

「だって別れてっちゃうのに」

「別れねえし、離れるだけっショ」

「うん、ごめん」

ネガティブな言葉を打ち消しながら、俺よりよっぽど綺麗で艶艶した髪に指を通す。さらさら零れていってしまうそれは、遠く離れて届かなくなってしまうことを体現しているようで、俺の薄っぺらな胸がズキンと音を立てて痛んだ。

髪ごと絡んでひとつになれたら、さみしくならなくていいのになんて女々しいことを呟いたら、君はまた笑ってくれるだろうか。




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