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(優しい狼さん の続きかもしれない)










佳月登が俺の事を靖友くん、と呼ぶようになったのはいつからだったか、はっきりとは覚えてはいない。
確か、メールでのやり取りがきっかけだ。向こうが「荒北くんの靖友って名前、いいよね」とか言ってきたもんだから、本気ではなかったが「じゃあ名前で呼べば?」なんて返したら次の日から名前呼びになった。必然的にというかノリで、俺も名前で呼ぶようになった。ちゃん、と付けるのはなんとなくこっぱずかしくて、呼び捨てで。

「靖友くん、なにしてるの」

中庭のベンチで昼の陽気にうつらうつらと半分夢心地でいると、頭の上から明るい声が降ってきた。慌てて垂れそうになっていた涎を手の甲で拭う。

「あ、ごめん起こした?」

「いや、気にすんな」

読みかけて放置した開いて伏せていた本を閉じると、登が少し間を空けて隣に座った。
携帯を確認すると、もう昼休みの時間だった。意識が戻ってきて気付いたが、ざわざわとしているのはそのせいか。

「まさかさっきの授業中からここで寝てた?」

「宿題忘れてきて、当てられたら面倒くせェから保健室行くって抜けてきてここで本読んでた」

「うわ不良だ。でも読書する不良って不良っぽくないね」

くつくつと笑いながら俺の本をひょいと手にとって、目を伏せてぱらぱらと捲る。寮の談話室でこんな風に本を読んでいるこいつの姿はよく見かける。

「この作者いいよね。文章が読みやすくてさ」

「わかるゥ? なんだかんだシリーズ読んじゃってんだよ」

「うん、続き気になっちゃうよねえ」

部内に友は居れども、こうして本の話をできる奴はいない。そもそも、お前本なんか読むの?なんて言ってくる奴の方が多いから、地味に読書好きであることは秘密にしている。もちろん漫画も読むのだが、登は従兄弟の影響で気づいたら所謂オタクになっていたらしく、そっちの話をふっても軽快なテンポで言葉を返してくれるのが楽しい。

「短編集も気になってんだけどォ」

「あ、持ってるよ。貸してあげよっか」

「マジで、じゃあお願いするわ」

登から本を借りるのも何回目になるだろうか。俺の好みの文庫本ラインナップなら図書館よりも登の方がよっぽど的を捉えていて、もう幾度となく彼女の本を借りてばかりだ。寮の部屋には大量の本が置いてあるらしい。俺に貸す本が実家にある場合はわざわざ送って貰っているらしくて少し申し訳ないのだが。
彼女の本は少し古いものでもあまり日に焼けていなく、しかし少しページがよれていたりすると、あぁこの本は気に入ってんだなぁ、なんて1人で思いながら紙を撫でていることも多々。

「じゃー、今回は何にしよっかなー」

「なんでもいいヨ」

本を貸してもらう度に何か一つ、登のお願いを聞く。それは本を貸して貰ってばかりで俺は何も返してやれなくて悪いなあ、なんて初めに飴か何かを渡したのがきっかけで、そのあとはベプシを渡して、その次は登に何か欲しいものはないかと尋ねるようになった。お願いといっても高いものを買うとかではなくて、コンビニのチキンとか、肩凝ったからちょっと揉んで欲しいとか、一緒にカラオケ行こうとか、そんなかんじ。
顎に手を当ててしばらく考えていた登は今回のお願いを思いついたらしく、ぽん、と手を叩く。

「じゃあ、パピコにしよっかな」

「まだそんなあったかくもないのにアイスかよ」

「昨日CM見て食べたかったの! あれふたつ入ってるから靖友くんも一緒に食べよ」

「ハイハイ」

なんだかんだ、食べ物の時は半分ずつ食べることばっかで、のほほんとしてるのに俺に気を使ってンのかな。
コンビニの前でなんでもかんでも半分ずつ食べている俺たちは恋人同士に見えたりするんだろうか。
今日もまた、お互い部活が終わった後に合流して寒いなぁとか疲れた後に甘いものは良いなぁとか言いながらアイスを食べるんだろうな、と思っていると空気を読まない腹がぐうと泣いたが、そういえば昼休みだった。それをきいた登はにやっと笑って、ガサガサ音を立てながらビニール袋を膝に乗せた。横に置いていたらしいが、こいつが来た時俺は半分寝ていたから持ってきていたことに全く気付いていなかった。

「あン? なァにソレ」

「おっひるー。おにぎりとパンどっちがいい?」

「さっすが気が利くじゃナァイ」

じゃあ全部半分ずつ食うか、なんて言ってみたらうまく出来るかなあと微笑むこいつとの距離が、少しだけでいいから縮まればいいのにと思ってしまうのは欲張りだろうか。

「おにぎり半分にするのむっずい!」

「っにやってんだよ、海苔は後からつけんだよ!」

どうでもいい会話でも楽しいとか、友情の一歩先に行きたいとか、そう思ってしまうのはいけないことなのだろうか。




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