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「なァにしてんの」

学生をしていると掃除とかゴミ捨てとかそういった面倒なことが順繰りに回ってきたりするので、面倒な掃除を避けるためにゴミ箱に入っていた袋を周りの多少の反対をやや強引に押し切って大して中身もないのに早々にゴミ置き場に持ってきた。そうしたら、そこに居たのが佳月登だった。

「何ってまあー……言わないとダメなの?」

「ゴミ置き場でゴミ漁ってたらなにしてんだって聞きたくなンだろ」

彼女の足下には開けられたゴミ袋がいくつか置いてあった。この辺はもう中を調べたのだろう。
何か失くしたのか、それとも……と、口にしようとする前に髪を耳にかけて相変わらずガサゴソやりながら佳月は苦笑いした。

「女子ってこわい」

「なァに、いじめられてんの?」

「いやぁ、なんか一部に嫌がらせされてるみたいでねーやんなっちゃう」

はは、と乾いた笑いにはどこか余裕があるし、そもそも俺は佳月と隣のクラスで見掛けることも多いのでクラス内でいじめられているなんていう噂は見たことも聞いたこともなかった。というか、明るくて優しいこいつは男女問わず人気があるしウサ吉にも優しい……らしい。彼女と同じクラスの新開が言っていた。俺からしたら正直ガサツでうるさい女にしか見えないんだが。そういえば女子校にいた時は女子にモテてたとかいうのも聞いた。東堂からだが。そういうのってほんとにあんだな。
んで、じゃあ誰がそんなことするんだよと思いながら、持っていたゴミ袋を放る。

「ねー荒北くん、尽八くんってさぁ」

「あん?」

「普段いろいろ言ってるけど実際女子から人気らしいのね」

「あァ……」

「ちょっと行き過ぎたファンもいるみたいでさー」

その先の話が読めた。
俺がわかったことを察した佳月は、面倒なことになったよ、と半笑いでため息を吐きつつも宝探しを続けていた。
まあつまり、こいつと東堂が仲がいいことをよく思っていない奴らが居るらしい。詳しく言うと、今年になって急に転校してきて、女子から人気(らしい)東堂と昔馴染みで完全に打ち解けきっている佳月を気に食わない奴らがいる。そいつらに陰湿な行為を喰らわされている、と。

「オメーは何探してんの。あといつからンなことされてんだよ」

「探してるもの? わかるかな、わたしがいつもカバンに付けてた……」

「あー、あの、丸いウサギのやつか」

「そうそう、それ。いつからか、かぁ。うーん、転校してきてわりとすぐかな。最初は全然だったんだけど最近ちょっとエスカレートしてきてねえ」

さぞかし面倒臭そうに言ってから、くしゃりと笑う。女子校にいた時は、おそらく今回のことみたいな自体に巻き込まれたり、自分が被害者になったりした経験はなかったんだろう。
ゴソゴソ音を立て袋の中を泳いでいる佳月を眺めながら、なんとも微妙な気持ちになってきた。

「なんか、文句言われてたのは覚えてるんだけど、それでわたしが尽八くんから離れないからしつこくしてくるんだと思うよ」

「……悔しくねェの」

「悔しくはないなあ、わたしなにも悪いことしてないし。尽八くんと付き合ってるわけでもないし。ひたすら面倒だよ」

けろっと言い切って笑うその顔はいつも休み時間に廊下で手を振ってくる顔だった。
ああ、こいつは本気で平気なんだなとその時に思う。ついでに、神経図太いけど、ちょっと頑固だなあとも。
適当に近くにあった袋を引っつかんで開いてみる。佳月の探しているものは知っていた。なんか、フワフワした饅頭みたいなウサギ。顔の下に赤いリボンがついているのも覚えていた。

「あれ、もしかして探してくれるの?」

「そうじゃなかったらゴミ漁りなんでしねーよ」

「わぁ、ありがとう。ベプシ奢るよ」

「おう」

にっこり笑顔に短く返事をした後、あっちにはない、こっちにはなかったと二人でぶつくさ言いながら作業を続けた。
思えば佳月とこんな風に二人だけで何かするのは初めだ。それがまあ、ゴミ置き場でゴミ漁り、もとい探し物というのもどうかと思うが。
3つ目を調べ終えて収穫がなく、つま先で軽く、改めて閉じたばかりの袋を蹴っ飛ばす。

「つーかさァ」

「うん?」

「東堂に言えばいいじゃナイ」

「いやいや、それはね、心配かけるし……っていうのは建前で、大袈裟だから嫌なのよ……あ、荒北くんも言わないでね」

「まァー……いいけどォ」

確かに、大袈裟だアイツは。
佳月にこんなことがあったなんて知ったら全校集会でマイクを教師から奪ってキーンとハウリングさせながら、ステージ上でさあ犯人よ出てこい!などと言いかねない。多分やる。
そんなことになったら一番恥ずかしいのは佳月で、黙っていたいのも頷けたが、なんとなく胸の内がもやっとしているのは治らなかった。
その時ふと遠くの袋が目についた。上にいくつか黒いゴミ袋が積み重なっていて、どう見てもわざとらしい。それを無理矢理引っ張り出して、中の紙を押し退ける。と、ぐっと奥に入れた手が、ふわりとしたものに触れる感覚。
明らかに紙じゃない。丁度掌に収まるくらいのそれを、弱く掴んで引き上げた。

「……東堂がダメでもさァ」

「うんー」

「……俺がいるじゃナァイ」

「えー?」

「ほらヨ」

ポイっと、白いフワフワの塊を相手に向かって投げる。
おっとっと、とバランスを崩しながらそれを掴んだ佳月は、包んだ手を退けて嬉しそうに顔を綻ばせる。

「わぁ! 荒北くんすごい!」

「まあ、だァから、俺とか……新開とか、福ちゃんとか居んだから、テキトーに頼れっつの、佳月チャン」

「うん、ほんとにありがと。今度からそうするね」

ああ、東堂はどうかしてる。
なんでこんなヤツのことを昔から知っておいて、好きにならないんだ。
自分の熱くなった顔をどうしても見せたくなくて、俺の見つけた白い兎をつっついている後ろの相手を見ずに、ポケットに手を入れた。

「っつーわけで、メアド教えろヨ」

「あれ、知らなかったっけ」

「電話しか知らネ」

帰ったら意味もなくメールしてみようか、なんて、柄にもないことを思ったりして。




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