パチパチ | ナノ


たまたま、学食でひとりでご飯を食べている時に尽八くんと会ったので一緒にお昼を食べることになった。周りの女子からの視線が若干痛いが、気にしないことにする。
そもそも一人で食べることになったのは、お昼の約束をしていた友人が腹痛のため保健室で寝ているからである。どうやら重いらしい。同情するならなんとやらなので、ここへ来る前に寝ている友人の枕元に未開封の使い捨てカイロを置いてきた。
適当に美味しそうだったものをチョイスして食べていたのが、たまたま目があった尽八くんのお盆にも同じものが乗っていた。

「旅館の息子がかつ丼とか食べるんだね」

「それはどんな偏見だ」

「だって好きな食べ物鯛茶漬けでしょ。わたしそんなの食べたこと無いよ。わたしの好きな食べ物はお母さんのカレーだよ」

「そういう平凡で家族愛を感じられる奴は好きだぞ」

とろとろの卵を上手く箸で持ち上げて口に運んでいると、向かい合わせに座った尽八くんは丁寧にいただきますと手を閉じてから食べ始める。こういうきちんとしている部分から、やっぱりいいところの育ちというのがにじみ出ている。
心なしか彼のカツの方が大きい気がするなあと思って眺めていると、きちんとした箸の持ち方でどこかお上品に食べながら、尽八くんが小首をかしげる。

「どうかしたか」

「いや、なんでもない」

「そうか? ……にしても、お前は綺麗に食べるんだな」

それはこっちの台詞だと思った。嫌味か。いやでも、そんなに汚い食べ方はしていない、はずだ。彼が丼を指さしてくるので、今度はわたしが首をかしげた。

「米粒を残さず綺麗に食べてるだろ」

「それは当たり前じゃないの」

習慣なんだけどなあ。実家でご飯を食べていた時に身についた当然のマナー。
よく聞く理由としてはお米を作っているひとに申し訳ない、とかそういうの。わたしは普通に、勿体無いなと思うので残さず食べる。あと、洗う時にご飯粒が残っていると面倒だし。
考えながら、お出汁が染みて卵がからまった残り二切れのカツを半分かじって咀嚼。味付けがいいなあ。

「当たり前のことが当たり前にできるっていうのは、なかなかできん奴も多いもんだよ」

「へえ。まあ、そうなのかもね」

「お前は魚の食べ方もちゃんとしているしな。俺としてはそういう、細やかなところがきちんとしているひとと結婚したいな」

「いいひと見つかるといいね」

ああ、もうお肉がこれしか残ってないなあ、と丼を見つめて適当に答えてから尽八くんの方を見ると、なんだか不機嫌そうな顔で水を飲んでいた。
なんだ、それって遠回しにわたしに言ってたの? バカだなあ。
付き合ってもいないのにプロポーズを先にするのはどうかと思うよ。と、わたしが最後のカツを口に放り込むと、じゃあ放課後体育館の裏に来てくれ。と、尽八くんは嬉しそうに笑った。