「午前の診察はあのガキで最後?」

「…はい、そうですね」



月詠はカルテに目を落とし、確認して返答した。


壁に掛けてある時計を見ると、正午を過ぎもうすぐ三十分になりそうだった。


月詠はドアのぶを掴む。



「では、午後も宜しくお願いしますね。失礼します」

「つーくーよーっ」

「なっ…」



甘えるような声で呼ばれたかと思えば、背後から抱きすくめられる。



「離れて下さいっ…!」

「やだ。朝の続き」

「続きって…」



何の前触れもなく、銀時は月詠に度々甘える。


今朝もそうだった。


初めはセクハラ染みた行為に小中高と鍛えた空手で蹴りを入れようか、はたまた公にでも訴えようか。


そんな時、銀時が幼い頃から肉親がいないことを偶然知った。


母親の愛も知らず、孤独に育ったのだとしたら。


こんな風に自分に接することで、それが満たされるのだとしたら。



「すき。月詠が」



銀時の掌にそっと自身のも重ね、握り締める。



「…ありがとうございます」



月詠の言葉に、銀時の眉がピクリと動いた。



「ね、そこはわたしも。じゃねーの?」

「………」



月詠は目を伏せる。


何度彼の口から聞いたのか分からない、“すき”。


月詠はその“すき”の意味が分からなかった。



「…そんなこと言われても」



銀時は、恋と言う名の好き?
自分は、母性本能から現れた母親みたく慈愛な好き?



互いの気持ちが、分からない。



月詠は顔をしかめ、そのまま押し黙っていた。



「…いちご牛乳。」

「え?」



ゆっくりと月詠に回されていた腕がほどかれて、銀時はカタンと椅子に腰かけた。



「売店に売ってるヤツ。飲みたいなー」

「…分かりました」



月詠はほっと胸を撫で下ろすと振り返らずに、診察室を出た。

















「月詠姉ちゃんばいばーい!」

「大事にしなんし」



一生懸命手を振ってくる男の子に、月詠は優しく微笑んで手を振り返した。



気がつけば午後の診察室を終え、射し込んでいた夕方の光もうっすら消えかけていた。



「あんのガキ〜…。今度来たらたたじゃおかねぇってーの」

「子供の言うことですから。明日になれば忘れてますって」



銀時はあからさまに不機嫌で、ぶつぶつと文句を言う。


最後の入って来たのは男の子。


少しませているようで、月詠を見るなり抱きついて、すきすきと連呼していたのだ。



銀時は机に頬杖をついて、月詠をじっと見つめる。



「で、実際どーな訳?」

「何がでしょうか」

「月詠の気持ち。そろそろ限界なんだケド」



空気は一変し、銀時は子供と戯れている時と同じではなかった。


反らしたい月詠の視線を、銀時は捕らえて離さない。



「つくよ」

「…っ」



名前を呼ばれただけ、それなのに逃げ出したくなった。



























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