「…坂田さん」


「なんすかー?」



スラリと伸びた長い足を組み直し、
溜め息をつきながらボールペンをカルテの上に置いた。



「え、」



突然肩を掴まれたかと思えば



「ぬしは治る気あんのかあァァッ!!!!」



次の瞬間、銀時の視界は天と地が逆になり、頭部には鈍痛が走った。



床で伸びている銀時に月詠は冷ややかな視線を送った。










 
 
 




Docter
     『センセーはどっち?』












 
 
 
「いきなりはヒドイってー月詠センセー」



「黙りんす」



銀時を一瞥すると、丸椅子に再び座り直す。





月詠先生。
一言で言えば容姿端麗、頭脳明晰。
真っ白な白衣と、黒のミニスカートのコントラスト。
左頬の大きな傷痕が、かえって彼女の魅力に拍車を駆ける。
加えて独特の口調。
この大江戸病院で、彼女の名を知らない者はいない。





「この結果を見なんし。血糖値が前より上がっておる。食後の薬はしかと守って飲んでおるか?」


「飲んでまーす。思い出した時に」


「…糖分摂取は週一という


「そんなんされたら銀さん死んじゃうって」



月詠の口元は引きつり、眉間に皺を寄せた。



「ぬしの頭は空っぽらしいな。何度言うたら分かるんじゃ、この阿呆!よく聴きなんし。食後には薬を服用し、糖分摂取は週一回までと



「はいはい、わっかりましたっと」



説教をさらりと流し、聞いているのかいないのか。


死んだ魚のような瞳を持つ、やる気のないこの男は。 
 
 
 
 
 
「…薬、出しておきますから。今度飲まぬなら…どうなるか分かっておろうな」


月詠は少し苛立ちを感じながらも、前回と同じ内容をカルテに記入した。



「え、どうなんの?」


「強制入院じゃ。ぬしが治るまで糖分は一切摂らせぬ。それが嫌なら大人しく言いつけを守りんす。」


「入院ねぇ…」


「分かったならさっさと去れ。次の患者を呼んでくれ」




看護婦が次の患者を呼ぶ声を背に、銀時は診察室を出た。 
 
 
 
 
 





「お疲れ様でした」


月詠は夜勤の看護婦らに挨拶をし、病院を出た。



外は夜。
風が冷たく、月詠の頬を勢いよく叩く。
マフラーに顔を埋めながら、自然と足早になる。



大通りに来ると、夜にも関わらず町は明るい。


どの店も賑やかさを増す時間帯だ。



月詠は、ファミレスの横を通る。



店内では家族の笑い声が此方まで聞こえて来そうだ。




「昼は忙しくてろくに食べてなかったのう…」



当然食べてなければ腹も減る訳で。



店には寄る気はないが、今日の夕飯は何にしようかと考えていた時だった。



見覚えのある、銀色の髪を見つけたのは。 
 
 
 
 
 
 
「やっぱ糖分摂らねーとなー。頂きまーす」



自分の一人言にうんうん、と納得したように頷いて。



銀色の髪をしたその男は、一口目を食そうとした。



ガシッ、



「…あ、…今晩は」


「“今晩は”じゃなかろう。今ぬしは何をしようとしていた」


「この甘味を食そうかと」


「……こんの、戯け者が!!」


「ぶへぁッ!」



天と地が逆にはならなかったものの、銀時は思い切り拳を入れられた。












 

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