陸奥は責任を感じていた。
いち早く危険を察知して、頭を護る事が出来なかったのか。
そうすればあんな辛そうな顔をさせずに済んだのに。
『陸奥ー!これ着て出かけるぜよ』
『断る』
『折角陸奥に似合うと思おて買うて来たのにのー』
『…怪我はどうした』
『怪我も治るきに!』
楽しそうに、しかも怪我が治ると言われては。
辰馬の言葉を信じた訳ではないが、陸奥は渋々承諾した。
折角買ってきたと言われたワンピースに袖を通し、とある星に最近新しく出来たというショッピングモールへ。
そして、現在に至る。
「そっちはイチゴやったかのー?わしのはチョコじゃき」
「…へぇ」
「陸奥、一口」
「ん」
「じゃのうて」
差し出した手を無視して、辰馬は口を開ける。
「食べさせて」
「は!?」
「ほら、早よせんと溶けるろー」
「自分で食べたらええちや!」
スプーンを辰馬の顔面に突き出しても、応じる素振りを見せない。
「…はー…」
思い出した。
辰馬は外見とは裏腹に意外に頑固で、こうと決めたら譲らない面がある。
陸奥はきょろきょろと周囲を見回す。
誰も見ていないのを確認するとアイスを掬い、素早く辰馬の口へとスプーンを運んだ。
「これで満足か」
「もう一口」
「さっき一口言うたぜよ!」
「じゃ、わしの番じゃき」
今度は陸奥の前にスプーンが差し出される。
「むっちゃん、あーん」
「いらん」
「誰も見とらんきに」
「しつこい」
「なら、ちゅーしゆう」
言い返す前に顔をしっかりと押さえられて、反らすことが出来ない。
「陸奥、」
「え、ちょ…まっ」
二人の距離は一気に狭まり、陸奥の顔は次第に紅くなり、目は自然と游ぐ。
「っ、たつま…!」
反射的に目を固く閉じ、最後の反抗で名前を呼ぶ。
すると、舌にひんやりと冷たい感触が広がった。
「…ん?」
「アハハ、どうじゃ?チョコは」
「……騙したな」
「やて、こうでもせんとむっちゃん食べんき」
「意味わから
「あ、あれ面白そうじゃのう!」
「え、」
次々と移り変わる行動に半分ついて行けなくなっている最中(サナカ)、辰馬はさりげなく陸奥の手を握り、そのまま歩き出す。
「アッハッハッ、こうしちゅーとそれっぽいのー」
「放すぜよ!!」
放せ、嫌だとどんなに言っても。
辰馬は素知らぬ顔で聴いているのかいないのかすら分からず、笑っているだけ。
「……」
そんな彼を見ていると、自分の反抗が馬鹿らしく思えてきた故に。
「(今日、だけじゃ…)」
陸奥は小さな手をおずおずと握り返した。
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