「………」
脳内がごちゃごちゃとして、何も考えられない。
取り敢えずは銀時に言われた通り、寝間着に着替えた。
布団を捲ると、シーツが異様に冷たくて身震いする。
プツンと何かが切れて、のしかかっている感覚。
横たわると身体が急に重くなった。
「熱…かのう」
銀時が言っていた事をぼんやりと思い出していると、襖が開く音がした。
「ちゃんと着替えたか?」
「…うむ」
「ほら、これ食え」
目線だけを銀時の方へ移すと、小さめの丼から白い湯気が上がっていた。
「何じゃ…それは」
「卵粥」
畳の上に卵粥を置き、背中を支えながら月詠の上半身を起こす。
銀時は一口で食べられる量を掬うと、月詠の口元へれんげを寄せる。
「ほら」
「すまぬ…食欲がわかぬ」
「一口だけ。銀さんお手製だから」
「……」
僅かに唇に開け隙間を作ると、舌へ流れ込む温かさ。
初めて食べるのに、何故か懐かしさを感じた。
「…美味しい」
「そりゃー愛情たっぷりだからな」
「フフッ…そうか」
とは言っても、やはり食が進まず。
結局二、三口で食べただけで後は残してしまった。
「すまぬ…」
「いーって。こんだけ食えりゃ十分だろ。薬、どこにあんの?」
「鏡台の引き出し…」
銀時は立ち上がり、指定された箇所を開き、カサカサと音を立てながら適当な薬を探す。
熱と書かれた袋を取りだし、掌に錠剤を乗せる。
隣に座り、銀時は水の入ったコップと薬を手渡す。
月詠はそれらを受けとり、口に流し込んだ。
ごくりと喉を鳴らして飲み込み、銀時にコップを渡して再び横たわった。
銀時は汗で月詠の額に貼り付いた前髪を指でとかす。
「…いつも誕生日の後熱出んのか?」
月詠は頭を横に振る。
銀時は決まり悪そうな顔で頬を掻く。
「悪かったな」
「…何故銀時が謝る?」
「だから、前日万事屋に泊まらせたからよ…」
誕生日前日の夜、確かに銀時の家に泊まった。
当日は忙しくなかったと言えば嘘になるし、その前後が疲れていなかったとも言えない。
しかし、だからと言って銀時のせいではないのだ。
目の前で小さく縮こまっている銀時。
布団から手を出すと、銀時の手を握った。
「ぬしのせいではありんせん」
「でもよ」
「銀時の側故に、気を弛めてしまいんした。それだけの事じゃ」
銀時は死んだような瞳を僅かに大きくしたが、月詠が笑っているのを見ると握られた手に力を入れた。
「わっちの熱に気がついたのは銀時だけ。なかなか目敏い奴だと思いんした」
「そうか…」
話が一段落して互いに顔を見合わせる。
気がつけば一人の男の話ばかりしていて、小太郎と月詠は可笑しくて思わず笑った。
「おいコラ。何楽しそーに話してんだよ」
「「銀時」」
噂をすれば何とやら。
声がした方へ視線を向けると、あからさまに不機嫌な表情の銀時がいた。
「貴様、何故ここに」
「仕事だよ、仕事。それよりお前ら何してたの?あ!その花!…まさかヅラ、幾まっちゃんと言うものがありながら…テメェ
「さて、そろそろ店に戻らないとな。では月詠殿、また」
「うむ。幾松に宜しく頼みんす」
「ちょっ…ちょーとォオ!?銀さん話について行けないんですけどォオ!!!」
なに、大した話はしていないさ。
二人は小さく笑うと、銀時を残して各々店へと戻った。
end.2010.3.25...後書