「もうすぐ月詠の誕生日だもんね。そりゃ悩むわ」
ガタンと椅子が倒れ、同時に銀時が立ち上がる。
「ちげーよ!」
「何、月詠以外の女に手出してるのかい」
「んなことすっかよ!!」
にっこり、と効果音が聞こえてきそうな程に笑う幾松。
銀時はひのやを仕切る花魁さんと幾松が重なって見えた。
何故月詠はあんなにも純粋なのだろう。
そんなことを考えながら椅子を元に戻して座った。
「簪…なんかどう?」
「かんざし?頭につけるアレ?」
「そ。あれならいつでも付けてもらえるし」
「ふーん…幾松っちゃんはそれ貰ったら嬉しい訳?」
「あたしは今は付ける機会が殆どないからアレだけど、月詠なら喜ぶと思うわ」
カウンターに頬杖を付き、メニューが書いてある板をぼんやりと眺める。
「ありがとな」
「フフッ、頑張りなよ」
「へいへい」
幾松に礼を言うと、ふわふわの頭をダルそうに掻きながら銀時は店を出た。
「その後俺は注文があって配達をしたが…。所々で銀時を見掛けたぞ。しかめっ面で簪を選んでいた」
「銀時が…」
「本当に月詠殿を好いているのだな」
月詠は目を伏せて、頬を紅く染め口元を上げる。
「普段はどうしようもない奴だがな」
「フフッ、そうじゃの。銀時は…」
誕生日といえば。
その後にあった出来事を思い出し、月詠は口を開いた。
銀時は外の道行く人を眺めながら、盃に酒を注いだ。
「遅くなってすまぬ」
月詠は襖を開けて、銀時の隣に座った。
「いや。別に…」
言葉が途切れたかと思うと、顔をまじまじと見られていることに気が付き、月詠は首を傾げた。
「どうかし…ひゃっ」
額に当てられた銀時の手が冷たくて、小さく声を上げる。
「お前熱あんじゃねーの?」
「戯け。そんな訳はありんせん」
「戯け、じゃねーよ。化粧してっからあんま分かんねぇけど顔色悪ィし」
銀時は立ち上がると押し入れから布団を取り出して畳に敷いた。
「今日はもう寝るぞ」
「随分と早いんじゃな」
「たりめーだ。な、台所ってどこにあんの?」
「…台所?一階の奥にありんす」
「よし。じゃ、戻って来るまでに寝間着に着替えてろよ。いいな」
そう念押しをして言い残すと、銀時は階段を降りていった。
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