「で、俺んとこ来た訳か」
「何か知らんかー金時」
「銀時だ!」
机を勢い良く叩き、銀時のツッコミにも動じず、辰馬は新八が出したお茶を啜る。
「知ってる訳ねーだろ。んなもん自分でやれよな」
「銀さん、陸奥さんが聞いても教えてもらえなかったから、坂本さんはここに来てるんですよ」
「んなこたぁ知ってっよ。色んな花植えればいんじゃねーの?」
「それじゃ意味ないアル。そんなの贈られても女喜ばないネ。とーいつせーが必要アル」
「花は良く知らねーしなぁ…」
銀時は自分の椅子に座りながら体重を後ろにかけ、背もたれに頭を置く。
ふと、目に映ったのは青空まで伸びる大樹。
「…おい」
「何じゃ」
「報酬はちゃんと用意してんだろな」
「アッハッハ!勿論じゃ」
「銀さんまさか…!」
「新八、神楽」
社長椅子を元に戻し、銀時は新八と神楽と顔を合わせた。
「命…懸けるぞ」
顔を青ざめさせながら。
「ヘドロの森?」
「ここは…花屋なんですよ……」
電柱に隠れながら新八が辰馬に小声で説明する。
その後ろには銀時と神楽も顔のみ出している。
万事屋のお隣さん、ヘドロの森。
店主のヘドロは花屋を営んでおり、店内には生き生きとした花々が咲いていた。
「あ、万事屋さん。こんにちは」
店先で花に水やりをしていたヘドロが気がついたらしく、声をかけた。
「こ、こここんにちは、ヘドロさん!ご機嫌麗っしゅー?」
顔は引きつりつつも、銀時は恐怖症を必死に抑えていた。
辰馬は社長、故に金持ち。
上手くいけば報酬がたんまり貰えると思い、今回命を掛けたのだ。
「おや?こちらの方は?」
「こ、こいつは坂本辰馬です。俺の昔馴染みで、ハイ」
「初めましてー。快援隊カンパニーの社長やっとります、坂本辰馬じゃ」
「これはこれは。初めまして、わたくしヘドロと申す者です」
ガタガタと万事屋一行が震える一方、流石カンパニーの社長。
色々な天人に会っているのだろう、ヘドロを恐れることなく話掛けた。
「あのースミマセン、女性が好きそうな花をご存知だったりしませんでしょうか…?」
「坂田さん、女性の方に贈られるのですか?」
「いえいえ!そんな滅相もございません…!!贈るのはこのモジャモジャですっ!!」
「いたたた!!痛いぜよ金時!!」
銀時は冷や汗を浮かべ、辰馬の髪を思い切り引く。
そして、今までの経緯をヘドロに説明した。
「成程、そうでしたか」
「陸奥がどんな花を好きか分からんくてのー」
「坂本さん、その方は本当に恥ずかしがっているだけなのでしょうか?」
意味が良く分からず、辰馬は首を傾げた。
「どういう意味じゃ?」
「花というものは卒業、入学、結婚など祝い毎は勿論、見舞いなどにも用いられます。花はどんな場合にせよ、思い出に添えられているんです」
しゃがみ込み、ヘドロは鉢に植えてある花を優しく撫でる。
「その方も何かしら思い出、坂本さんとの思い出があるのではないでしょうか?坂本さんなら気づいてくれると、それを待っているのかもしれませんよ」
他から見れば蛇に睨まれた蛙の如く固まってしまいそうな形相で、ヘドロは笑った。
にっこり、と。
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