それから数日間、辰馬と一度も話をしていない。
一方的に陸奥が避けているのだ。
想いとコンプレックスの狭間で、陸奥は葛藤していた。
「…あ」
帰るタイミングをずらしたくて、最近は道場を一人で掃除してから帰るようにしていたのに。
壁に寄りかかって音楽を聴いていたが、陸奥に気が付くとへらっと笑いかけ、イアホンを外す。
「お疲れさん」
「…お疲れ」
玄関で辰馬が待っていた。
「陸奥、」
名前を呼ばれただけなのに、ビクッと肩が震えた。
陸奥の仕草を見兼ねたのか、辰馬が口を開く。
「アッハッハ!もうええちや」
「え…?」
笑っているのに、その笑みで悲しみを隠しているように見えた。
「わしゃー陸奥ば好きじゃ。そのことには変わりない。けど、それで困らせるのは嫌じゃき。だから、」
ザワッ、
一際大きな風が吹き、若々しい青葉が揺れた。
「アレ、忘れていいぜよ」
陸奥は目を見張る。
唇を動かしても、次の言葉が出てこない。
「じゃ」
肩をポンッと叩かれ、陸奥の横を通り過ぎる。
「坂本っ…!」
思わず振り返って名前を呼んだ。
しかし、辰馬は振り返りもせずそのままひらひらと片手を振るだけだった。
違う、違う。
本当はおまんが好きなんじゃ。
けど、
「これで良かったんじゃ…」
こんな女はおまんに似合わないから。
いつも笑って、周りから好かれて、慕われて。
太陽みたいなおまんにの隣に、自分は居られない。
「っ、泣くな…泣くな…」
さよなら、初めて好きになった人。
陸奥は辰馬とは逆方向へ無我夢中で走り出した。
「………フー」
煙管の煙を吐き出し、月詠は保健室からその様子を見ていた。
→