「つーかてめぇら何でここにいんだよ?あん?」
「遊園地と言えば最後は観覧車と決まっておろう。王道だ」
「皆考えることは同じじゃのー、アッハッハ!!」
どうやら三人とも最後は観覧車で閉めようと思っていたらしく、同じ列に並んでいた。
「兎に角俺はこれに賭けてんだよ。てめーらは違う乗り物に乗れよ」
「誰が貴様に譲るか。この勝負の為に俺は今日が誕生日だと嘘までついたんだ。俺に譲るべきだ」
「お前の都合なんて知らねーよ!つーか良くそれ信じてくれたな!」
「観覧車の頂上でちゅーするのはわしじゃき、金時はヅラじゃなくわしに譲れば丸く収まるぜよ!」
「収まんねーよ!いい加減にしろよ!勝つのはこの俺だ!!」
「いいや俺だ」
「間をとってわしでええちや」
「「てめーは黙ってろ!!」」
チャキ、
「黙るのは」
ジャキン、
「ぬしらじゃ」
辰馬の後頭部には銃口が、銀時と小太郎の首元には苦難の刃が。
男性陣にだらだらと冷や汗が流れる。
「むっちゃ〜ん…?」
「おかしいと思ったぜよ。こがな場所で取引もクソもあるか」
「わっちらはぬしらの賭け事に付き合っていたのじゃな」
「いや…そーゆー訳じゃなくてですね…」
今言えば言うほど墓穴を掘るだけな気がする。
「幾松さんよー。こいつら殺っちゃってええちや?」
「準備は出来ておる」
陸奥が笠をかぶり直し、月詠はさらに苦難の刃を立てる。
「幾松殿!」
「幾まっちゃん!」
「お姉チャン!」
視線は一気に幾松に注がれ、沈黙が流れる。
幾松が横目で男性陣を見ると、口を開く。
判決が、下る。
「好きにしな」
「「「うそー!!!」」」
ガウンガウン!!
シャガガガ!!!
「「「ぎいやぁああ!!!!!」」」
夕暮れの遊園地、観覧車に乗ることもなく。
閉園の音楽と共に流れたのは、銃声、苦難の飛ぶ音、そして男達の叫び声だった。
「…すまない」
「………」
前を幾松が歩き、小太郎はそれを追いかける形で帰路を歩く。
「誘う口実が見つからなかったんだ」
「…アンタも馬鹿だねえ」
足を止め、幾松が振り向く。
「普通に誘えば良かったのにさ」
「…え?」
「遊園地に行こうって。ただそう言えば良かったじゃないの。そうすりゃあたしも怒らなかったのに。アンタの誘いをあたしが断ると思ったのかい?」
幾松は困ったような、寂しそうな。
そんな表情で笑った。
「幾松殿…」
「この落とし前はきっちり払ってもらうからね!覚悟しときな」
「!…勿論喜んで受け入れよう」
顔を見合わせて笑い合うと、肩を並べて夕暮れの歌舞伎町歩きだした。
「阿呆」
「むっちゃ〜ん」
「クソモジャモジャ」
「むーつー」
「死ね」
「働き詰めだったき、たまには陸奥に休暇を取って欲しかったんじゃ」
「それでくだらん賭け事したと」
「あれは酔った勢いじゃ〜。すまん!陸奥!!もうしないき」
「当然じゃ。次しゆうことあれば間違いなくその頭ブチ抜く」
辰馬は取り敢えず許しを貰えてほっと胸を撫で下ろす。
「でも」
陸奥は笠をわざと深くかぶり、自身の顔を隠す。
「それ以外は…ありがとう」
陸奥に怒られようが、取引を遅らせようが。
それ以上に辰馬は陸奥が大切で。
自分を気遣ってしてくれたことだと知っていた。
「…むーつー!!」
「っ、調子乗るな!!」
「すまねぇ…月詠。あんな勝負して」
「……勝負だけのためにわっちを誘ったのか?」
「ちげーよ!」
感情が高ぶって声が大きくなる。
銀時はポリポリと頬を掻く。
「言い訳にしか聞こえないかもしんねーけど…月詠と一緒に出かけたかったの前提。月詠に逢いたかったの前提。月詠が…好きなんだよ」
「………」
歩くのを止めて、銀時と視線を合わせる。
「二度とこんなことしないと約束するか」
「たりめーだ。…じゃなくて、します」
「…分かった」
「許してくれんの?」
煙管を吸い、銀時に向かって吐き出す。
「ゲフッ、ゴホッ!何すんだよ!!」
「わっちも好きだからな…ぬしを」
「!」
煙管の煙をゆらゆらと漂わせながら、月詠は優しく笑った。
今度は正直に、変な意地を張らずに誘おう。
自分の大切な女(ヒト)を。
end.2010.02.25...後書