「ほれ」
「すまんのう…」
自動販売機で買ってきた飲み物を手渡し、辰馬の隣に座る。
「ダメじゃー、ちっとも治らん。頭ぐわんぐわんする」
「おまんは二日酔いか」
陸奥は缶に入ったお茶を一口飲む。
「…むっちゃんがちゅーしてくれたら治る気がするのう」
「!」
辰馬の発言に口に含んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「むっちゃーん」
腰の辺りに腕を回され、抱きすくめられる。
「酔いとそれは関係なか!離せ!!」
「いーやーじゃー」
無理矢理突き放そうとするが、到底力では敵う訳が無い。
このままでは恥ずかしすぎて、顔から火が出そうだ。
「っ、するきに!だから一回離れろ!!」
顔の火照りを冷ますために手で扇ぐ。
「…目、つむれ」
「恥ずかしがりじゃの〜」
辰馬は上機嫌で言う通り目をつむる。
ちゅ、
「にゃー」
「!?」
思わず身体を引き、目の前にいる物体をまじまじと見つめる。
「なんじゃこれ」
「陸奥じゃ」
「いや、猫だろ」
「今陸奥ってつけた」
素直になったかと思えば、辰馬が目を閉じている隙に替え玉。
「アッハッハ!!泣いていい?」
「それよりさっき飲み物買いに行った時、あの銀髪ば見た」
「銀…おぉー金時も来ちょったんかー」
「頭知っとたんか?」
「いや、全然まーったく知らんぜよ。ヅラも来ちょるとはなー」
辰馬は立ち上がると昼飯を食べに行こうと言い出し、先を歩く。
「(わし今黒髪のこと言ったかが?)」
「月詠、次ここな」
「うむ」
場所は一変し、お化け屋敷。
「(女は足が多い生き物と怖いもの…則ち幽霊が嫌いなハズだ)」
銀時の脳内恋愛マニュアル本を開き、うんうんと頷く。
「次のお客様、どうぞお入り下さい」
入口が開けられ、閉めきられていた中の生暖かい空気が顔に吹く。
「(うっ…)」
想像以上に暗く、一寸先も見えない。
「前が全く見えぬ」
「そーだな…ハハ」
月詠の前をゆっくりと足元を確めながら歩く。
ドアが閉められると、今度はひんやりとした空気が2人を包む。
「な…何か聞こえねぇ?」
「赤子の泣き声かの」
月詠は壁にかけてある骸骨の口を開けたり閉じたりしながら冷静に返答する。
「…つーかお前怖くないワケ?」
「どうじゃろう、…あ」
「何だよ」
「前を見なんし」
「は…
正面を向くと長い髪を前に垂らした女の人が、銀時の顔すれすれにまで近くに立っていた。
「私の…赤ちゃん返して…下さい…」
「…ぎゃぁああ!!!!」
それからというもの、各々楽しむのと平行に機会を伺うがなかなか果たせず。
あっという間に夕方になった。
「頭、トイレ行って来るき」
「じゃ、あの前に並んでるぜよ」
「ん」
抵抗するのも面倒になり、陸奥は辰馬の言うがままに従っていた。
「(しかし…)」
何か引っ掛かる。
化粧室へ向かいながら思考を巡らす。
「(頭は彼奴らが来るのを知っていた…?
偶然に取引とかぶるのはどうも考えられん。会う約束でもしちゅう
ドンッ、
「すまない、大丈夫か」
「わしも考え事してたき…あ」
「ん?」
「月詠ちゃん、知り合いかい?」
「いや…何処かで会いんした?」
陸奥は首を横に振る。
「わしは陸奥。坂本辰馬率いるカンパニー快援隊の船員じゃ」
「快援隊?」
「銀髪とわしらの頭は知り合いじゃ」
「銀髪…銀時のことか?」
「そう。一応ソイツとも顔見知りだぜよ。今日おまんらがいるのを見かけたが…」
別に銀時と小太郎が約束をしていたとしたら、それは別に構わない。
しかし、辰馬が加わるとなると取引が行われるという発言がどうも怪しい。
嘘かもしれないのだ。
辰馬による勝手な行動は、快援隊にとって次の取引の遅れになってしまう。
陸奥は自身のことであるため、言おうか言うまいか迷ったが。
「…ちっくと訊いてもええか?」
それでも何か知ってるかと思い、二人に話すことにした。
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