「陸奥!船ば乗るぞー」
「船?」
「あれじゃあれ!」
陸奥は笠を少し上げると、瞳に映るは左右に揺れる大きな船。
「頭船酔いするきに。止めとけ」
「アッハッハ!これはただの遊びもんじゃき、平気じゃ!」
陸奥の手を引いたまま、列の最後尾に並ぶ。
「陸奥、その笠外せ」
「断る」
「それじゃ回りにも迷惑がかかるろー」
笠は確かに幅をとってしまう。
不本意だがこの船、バイキングに乗るとしたら飛ばされてしまうかもしれない。
陸奥はあからさまに不満気な表情で渋々笠を外す。
さらり、
「こんなに綺麗な顔しちゅう。見せないと勿体なか」
髪を撫で、辰馬が頬に触れる。
「…その口二度と聞けないようにしてやるか」
「アッハッハ!!陸奥ははちきんじゃのう」
話をしているうちに順番が回って来た為、船に乗り込む。
徐々に大きく揺れる、船の上。
「うっぷ…おええぇ」
「だから言ったんじゃー!!!」
「幾松殿、此処に座ろう」
「そうだね」
オープンカフェならぬ、オープンレストラン。
小太郎と幾松は店先で注文した食べ物を受けとると、空いている席に座った。
「こういう場所は始めてだね。いつも店でラーメン作るか、あるいはアンタと二階でお茶するくらいだったから」
「人が多い場所は嫌いであったか?」
「いや、別に」
幾松はフォークでパスタを食べやすい大きさに巻くと、口へ運ぶ。
「たまにはいいかもしれないね。アンタとなら」
「幾松殿…」
この感情に名前をつけるなら、本能。
幾松と口づけを交わしたくなった。
「…幾松殿、口許に付いているぞ」
「え、どこだい。ここ?」
「そこじゃない」
幾松の頬に両手が触れる。
「ちょっ、顔が近
ガシャーン!!
二人の前で突然店員が倒れ、運んでいた食べ物が散らばる。
「ちょっと、大丈夫かい?」
小太郎から離れると幾松は店員に声をかけ、皿を拾い始める。
「すんませーん、俺の足が長いもんで」
「銀時!しかと謝りなんし」
「銀時!?」
振り返ると銀髪の男がにやにやしながら小太郎を見ていた。
「さっきよくもてめぇのオバQ邪魔してくれたな?おい」
「ちっ、良い雰囲気だったものを」
「けっ、そう簡単にさせねーよ」
小声で言い合っているうちに、月詠も店員と幾松を手伝う。
「すみません、ありがとうございました」
店員は何度も頭を下げると、業務に戻って行った。
それを見送ると、月詠と幾松はちゃんと顔を合わせる。
「えっと…初めまして。あたしは幾松」
「あ、月詠でありんす。銀時のせいで迷惑かけてしまって…すまぬ」
「このくらい平気さ。そんなことよりも、銀さんにこんなべっぴんさんがいたとは。驚きだね」
「そっそんなことはありんせん!」
「「………」」
月詠と幾松がそのまま二人で楽しそうに昼食を食べ始める傍ら、銀時と小太郎は敵対心を燃やし、終始無言であった。
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