老麺屋・北斗心軒の引戸が開く。



「いらっしゃ…アンタかい」


「邪魔をする」



幾松の表情が綻び、小太郎から視線を外すと鍋を洗い流す。



「随分と朝早く来たもんだね。今日も蕎麦かい?」


「幾松殿、実は今日俺の誕生日なんだ」


「はあ!?」



小太郎の唐突な発言に、幾松は驚きを隠せない。



「だから今日1日付き合って欲しい」



懐からチケットを取り出すと、厨房とカウンターを挟むテーブルに差し出す。



「遊園地…?」


「一度行ってみたくてな」


「はー…」



シュルリ、

溜め息を吐くとエプロンの紐を解き、外へ出る。



「あれ、幾松ちゃん今日は店閉めるのかい?」



ラーメンを食べにきたらしいおばちゃん達は暖簾を外そうとする幾松を見上げる。



「ごめんね、今日は臨時休業さ」


「幾松殿!」



引戸を閉めると、居間へと続く階段の暖簾を片手で押さえる。



「少し待ってな。準備してくるから」



そう言い残し、階段を上がった。












「地球に寄るぜよー!」



宇宙を旋回する快援隊の船に辰馬の声が響く。



「頭ー、そがな予定あったか?」



スケジュール表を見ながら、陸奥は首を傾げる。



「あったあったー!わしに直接連絡があったんじゃ」


「…ふーん」



腑に落ちないらしく、怪訝な表情で再びスケジュール表に目を落とした。



「(こうでもせんと、陸奥ば連れて行けんからのう)」



普段頭が空っぽな分、今回は策略を立てた辰馬は一人ほくそ笑んだ。
















「混んでんなー」



前もって約束をしていた銀時と月詠は開園と同時に入場した。

休日であるが故に、やはり恋人や家族連れで込み合っていた。



「さてと…何か乗りたいものはありますか?」



月詠は今まで遊園地に来たことがなかったため、凄いのう…などと呟きながら周囲を見回している。



「月詠サン?」


「あ、すまぬ。つい…銀時、わっちはあれに乗ってみたい」



指差す先には大江戸遊園地名物とも言える巨大な絶叫マシン。




「よーし、じゃ行くぞー」


「うむ」



銀時は月詠を一瞥すると、心なしか普段よりも表情が幼くみえる。

銀時は人知れず静かに笑う。











ガタンガタン、



「ほー、随分と高く上がるのう」


「…………」


「江戸はこんなにも広いんじゃな。あ、あれはぬしの家ではないか?」


「…………」


「銀時?」



なかなか返事が返って来ないため、銀時の方をみる。


「銀時、顔が真っ青じゃ!…まさか高所恐怖症か!?」


「いや〜違うよ〜…高いとことか銀さん大好きだから、大丈夫大丈夫…ははは」



銀時は冷や汗を流し、身体に下ろされている安全バーを強く握りしめた。



「(こぇーよオィイ!!ナニコレ、まだ上がんのォオ!!?マジ勘弁してく



ガッタン、



「きゃー!!!」



急降下したため、乗客の悲鳴が一気に上がる。



「ぎぃやぁああ!!!!」



銀時の声は江戸の大空に特別響き渡っていた。

























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