「…はぁー、うっぷ」
陽の光がいつにも増して眩しく感じながら、銀時は昼の吉原を歩く。
二日酔いのせいで吐き気が襲い、ため息と同時に戻してしまいそうだ。
それでもあの無茶苦茶な約束をしたために、今日彼女を誘わなければならない。
決戦は、明日(ミョウニチ)だ。
「あら、銀さん」
ひのやに着くと、客と楽しそうに世間話をしている花魁、日輪が銀時に声をかける。
「よぉ。月詠、いるか?」
「月詠なら部屋にいると思うわ」
「分かった、邪魔すっぞ」
静かな廊下を歩き、月詠の部屋を目指す。
「つーくよ。入るぞ」
「…銀時か。入りなんし」
襖を開けると、午後の見廻りに備えてだろうか、事件名簿を畳に広げて一つ一つ確認している月詠が居た。
銀時は邪魔にならないような場所に胡座をかいて座り、その一枚を手に取る。
「最近忙しいのか?」
「忙しい、と言われればそうかもしれぬ。窃盗などが頻繁に起こってのう。わっちも含め、百華もあちこち飛び回っておる」
「…ふーん」
「ところでわっちに何か用か?」
資料から目を放し、月詠が顔を上げると初めて目線を合わせる。
心臓が特別大きく一跳ねした。
「これ…」
「…遊園地?」
昨日帰り際に小太郎から貰ったチケットの一枚を渡す。
「明日、その…行かねぇか?」
「明日?」
渡されたチケットを見つめていたが、暫くすると月詠は苦笑した。
「ありがとう、銀時。誘いは嬉しいが…」
広げられた資料の上にチケットを置く。
「この通り手が放せない状態なのじゃ。だから
「行ってきなよ!月詠姉!!」
襖がガラッと開く音と共に飛び込んで来たのは少年の声。
「晴太」
「月詠姉ずっと働きっぱなしじゃダメだよ。たまには遊ばなきゃさ。ね、母ちゃん」
「そうよ。銀さんが折角デートに誘ってくれてるんですもの」
「「デッ…!!」」
全く意識していなかったため、二人の顔が一気に紅くなる。
「日輪っ!」
「百華の子達も子供じゃないんですもの。親が居なくても自分達でやれる力はあるわ」
「そうじゃが、でも
「月詠…こんな話を知っているかしら…?」
日輪が始めた話で月詠はどうにか納得したらしく、最終的に遊園地に行けることになった。
午後の見廻りもあるということで、時間や待ち合わせ場所などを決め、話が終えるなりひのやを後にした。
「(あの例え話…切り出し方…俺もやったなぁ)」
辰馬の飛行船のせいで、万事屋が滅茶苦茶に壊れた時のことを思い出す。
『誰が一番先におなごの唇ば奪うか』
「(こーなりゃやけくそだ)」
頭を掻きながら、気だるそうに空を見上げた。
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