蜜柑のあの白い皮、アレだって栄養ある (桂幾)





冬が段々とその姿を現し始め、街行く人々の足も心なしか速まっている。


こういう時期に、ラーメン屋という暖かいモノを提供する仕事は儲かるのだ。


そしてその分、忙しくなる。


一人でこの北斗心軒を営む幾松にとって、客数が多いそれは勿論大変なのだが。


彼女はそれを苦痛とは感じていなかった。


忙しいということは、この店が繁盛している証拠だから。


そして、理由はもう一つ。



「幾松殿、ラーメン定食一丁」



何料理屋だか分からない姿をした長髪の男が、手伝ってくれているから。











「ふぅ…これで一段落か」


時刻は26時。



明日の仕込みと掃除といった全ての準備と後片付けを終え、桂は息をついた。


外は街灯に照らされ、雪がちらついてきている。



肩を縮こませながら、今夜泊まっても良いかと聞くと、了承の返事が帰ってくる。



いつものことだ。



「では、俺は二階に行っておくぞ」


「うん、私ももう少ししたら行くわ」



エプロンを外して髪を解く幾松を横目に見て、桂は先に二階へと上がっていった。






「…何してんの」


遅れて二階に来た幾松が目にしたのは、例えるならば大きなカタツムリ。



寒いからとつい先日出した炬燵に、桂は上半身だけを出して横になっていた。



「いや…これはアレだぞ、日本人たる者、炬燵を見たら入りたくなるというか…」



おどおどと言い訳をする桂に呆れを忘れて可笑しくなり、本当は風呂に向かうはずの足を炬燵に入れた。



座って足を伸ばすと、桂の足に己のそれが当たる。



占領するな、と言うと、素直に引いた。



「でも、確かに炬燵を見たら入りたくなるのよね」



冷えた身体を暖めながらそう言うと、桂は満足気に笑った。


しどろもどろに考えた言い訳が成功したためであろう。



「炬燵は暖房と違って部屋が乾燥しないしな。しかも、光熱費も安い」


「詳しいのね」


「当たり前だ。この間も攘夷志士会合の場に冷暖房完備するのを止めて炬燵を置いたからな」



どうでもいい裏情報を聞き流しながら、幾松は机上にあった蜜柑をむく。



炬燵に蜜柑。
この組合せもまたたまらない。



「でも、炬燵もいいけど背中が寒いのが難点ね」


「それは仕方あるまい」


「言ってみただけよ」



オレンジ色の皮をむき、残った白いモノも丁寧に剥がしていく手を見ながら、桂はおもむろに炬燵から出た。



トイレ?と聞く幾松に首を横に振りながら、彼女の背後に立つ。



そして、足の間で彼女を挟むようにして再び炬燵に入った。



勿論、桂は幾松を後ろから抱え込む姿勢。



「どうしたのよ」


「何だ、気遣っているのだぞ」


「だから何がよ」



白い皮も全て律儀にむき終えた幾松が、少し低い目線から桂を見上げる。



「背中、もう寒くないだろう?」



いやらしい手つきではなく、腕を腹部に回して抱き締めた彼に、女は秘かに微笑んでいた。



「そういうことだ、蜜柑をくれ」



あーん、と大きな口を開ける桂に、いい大人が何をしているのかと思いながらも。



今日だけ、と甘やかして一粒の蜜柑をその中に入れた。






一つの炬燵。
二人の男女。



生まれるのは、温もり。










(終了!駄作で申し訳ありません…
桂幾には、ぬくぬくな雰囲気が似合うと思います!)
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