あの日の出来事を思い出してみることにした。
『だからお前の心臓がドクドクいってんの、そーゆーことでいーよな?』
『好きにしなんし』
「(…好きにしろって…あれ?それは俺を好きなうちに入るのか?つーか俺らもしかしてもしかしなくても…)」
銀時は椅子から勢い良く立ち上がった。
「付き合ってねェ!?」
「何がですか?」
銀時は声の主へ近付き、肩を掴む。
「つーくー!」
「な、何ですか!午後の診察もう終わっていますよ?」
時計を見れば間もなく夕刻。
さっきの子供で最後だったらしい、隣に立っていた看護婦は既に居なかった。
「な、月詠」
「はい?」
肩を掴み、月詠の顔を真っ直ぐ見て銀時は言った。
「あの親父には気を付けろ。つーか担当辞めれ」
「?誰のことで」
「ほら、いつも話してるやつ。母ちゃんいねー」
「…あ、202号室の」
銀時が意図している人物は判ったらしいが、月詠は首を傾げた。
「何故担当を辞めろなどとおっしゃるのですか?」
「何でって!あいつがお前のこと狙ってるからだろーが!!」
「は?」
月詠は怪訝な表情を浮かべ、眉を潜めた。
「先生のおっしゃっている意味が分かりません」
「だからお前のことが好きなの、あの親父は!」
「ふざけたこと言わないで下さい。そんな筈ありません」
「てめーいい加減にしろよー!?天然通じんのは十代までだコノヤロー!!」
「っ、わっちは天然ではありんせん!」
「いーか!取り敢えずあいつには近付くな!!」
何故そんなことを言うのだろう。
子供は素直で、父親も良い人なのだ。
銀時に理解してもらえなさそうで、月詠は苛立ちを覚える。
「わっち…私は担当を辞めません」
「なっ…」
「辞める理由が見当たりませんので」
「充分すぎっだろ!」
「それは先生の主観的判断です。もっと客観的に見るべきです」
カルテを握り直し、銀時に背を向ける。
「失礼します」
「おいっ!つく
最後の言葉は、扉が閉まる音で消えた。
病院の廊下は、足元を照らすための光の側だけ明るい。
今夜は夜勤であるため、月詠は見回りをしていた。
「…お父様?」
「…あぁ、看護婦さんでしたか」
丁度次の階へ上がろうとしたところ、少年の父親が長椅子に腰かけていた。
「こんなところで何をしていらっしゃるのですか?」
「いや、なんだか眠れなくてね」
月詠は悩ましげな表情をしている父親の隣に座る。
「何か悩み事でも?」
「悩み事?まぁ、そうと言えば悩み事、かな」
そう言って深い溜め息を吐く。
「息子さんならもうすぐ…あと一週間すれば退院出来ますよ。から心配しなくても
「そうじゃないんだ」
垂れ下がっていた頭を上げ、父親は月詠を見据えた。
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