陸奥の試行錯誤は上手く行かず、まるで一人相撲。
溜め息の数は増えていく、その最中(サナカ)だった。
「頭は何処に居る?」
「坂本さんは社長室で取引の交渉しとしますよ」
「そうか」
行く先は社長室へ。
他の取引交渉中では邪魔になるが、此方も此方で刻を急いでいた。
陸奥の足取りも自然と速くなる。
ドアの前に立ちノックをしようと手を出しかけた。
「えー?どうしようかしらー」
甘ったるい女の声。
思わず叩くことを躊躇してしまった。
「そこを何とか、な?」
「そうねえー辰馬が相手してくれるっていうなら考えようかしら」
表情は強張り、その場から離れられない。
─辰馬?
“相手”って何の話しちゅう?
「アッハッハ!こんなべっぴんさんわしには勿体なかー」
「そうやって…話そらさないで」
明らかに取引交渉の会話ではない。
「陸奥さん、中に入らんとですか?」
「─あ、わしは
「坂本さーん、陸奥さんノックしたの聞こえんかったですか?」
「え?おー、すまんのう!何かわしに用か?」
部下が陸奥の代わりに扉を開けても、何時もと変わりなく話しかける辰馬。
その態度に苛立ちを覚えた。
「…もうええちや」
「は?」
「だからもう良い言うてるぜよ」
銃をぶっぱなしそうになったが、それは控えた。
「後は頼むぜよ」
「え?あ、はい…」
「陸奥!」
自分を引き止める声を無視し、社長室を出た。
「─阿呆、モジャ、死ね」
ブーツを思い切りならしながら、廊下を歩いた。
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