からんからん、



「ありがとうございました」




寒さに肩を竦めながら、月詠は再び帰路を歩く。
今度は、一人ではないが。




「お願いしますよー月詠センセー。担当代わるのはマジ勘弁」


「では、言いつけを守るのじゃな?」


「それも嫌だ」


「………」



担当医が代わるのが嫌。
言いつけを守るのも嫌。






歩くのを止め、銀時に向き直る。



「いい加減にせぬか。わっちを好かぬのじゃろう?だからこうして嫌がらせをする」


吐き捨てるような台詞。


「…それさー、本気で言ってんの」



「っ、」



何かを言い返そうとしたが、出来なかった。
銀時の見たこともないくらいの真剣な眼差しのせいで。


「と、当然じゃ」



普段と違う空気に戸惑ってしまう。



「言わねーと分かんねー訳?」


「文句があるなら言いなんし」



銀時は月詠へとゆっくり歩み寄り。



月詠は思わずたじろぐ。



それでも二人の距離は徐々に狭まっていった。



「担当医が代わるが嫌なのは、月詠センセーじゃねーと意味ないから」


「意味…?」


「言われたこと守んねーのは、センセーにかまって欲しいから」


「坂田さ


「糖分摂取止めねーのは、



相手の瞳には、自分が映っている。
互いの息遣いが分かるほどに、近い。




「月詠センセーに会いたいから」



言い終わるのと同時。
銀時の唇が月詠の頬を奪った。




「!!?」


「分かりましたか?恋愛ぴっかぴか一年生の月詠センセー?」


予想外の出来事で、月詠は一瞬固まってしまった。



「…しっ…知らぬ!!」


なんとか声を絞り出す。 
 
 
「顔が真っ赤ですよー月詠チャン。頬っぺたにちゅーくらいで」



「寒いんじゃ!」



「で、分かった?」


「知らぬと言うとるじゃろ!」



ハイヒールの音をアスファルトに響かせながら、スタスタと歩き出す。



「知らぬと言うならば」


「!」



後ろから腕を引かれ、銀時の腕の中に抱きすくめられた。



「次までの宿題にすっから。ちゃんとやんねーとこんなんじゃ済まないかんな」



耳元で囁かれ、銀時の声が心無しか色っぽく聞こえる。




ドンッ、



「もう病院に来んで良い!他を当たれ!!」



銀時の腕の中からなんとか抜け出し、振り返らずに走り出す。



「気ィ付けて帰れよー」



銀時は暢気にひらひらと手を振り、月詠の後ろ姿を見送った。













「…っはぁ、はぁ…」




恋だの愛だの。
自分には必要ないもの。
治療や薬では治らないものばかりで。
縁のないことだと思っていた。


「…何故じゃ」



走ることを止め、ゆっくりと歩く。





何故、反らせなかった。
何故、拒まなかった。




『宿題ちゃんとやんねーと』




月詠はそっと自分の頬を撫でてみる。



熱なんて残っていないハズなのに。
熱い、気がした。



「本当に、分からぬ…」




この宿題は今まで以上に自分を悩ませることになるのだろうか。



そんな事が脳内を横切り、深い溜め息を夜空に向かって吐き捨てた。


 
 
 
 
 
 




end.2010.01.24 
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