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しかし、抱き締め返す腕は回って来なかった。
銀時は月詠の肩を掴み、そっと押し返す。
立ち上がり、先程まで着ていた着物の一枚を月詠にかけた。
「ぎんと、
「今日は帰るわ。客として、お前は抱けない」
銀時はそう言い残した。
廊下で銀時の足音が少しずつ遠ざかって行く。
「っ、ひ…、く」
わっちにはこれしかない。
違う、これしか知らぬ。
遊女としては生きて行ける。
しかし女としては、生きられない。
「…だめじゃ、な」
今、はっきりと分かって。
身に刺さるようで、染み込むように痛い。
「…───!!」
堪えきれず、声を上げて泣いた。
その声は夜の吉原の空に吸い込まれた。
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