12

 
 
徒に時は過ぎ。

自分が取っている講義を終え、月詠は玄関を出た。

数時間前は半分もノートを写し終わらないうちに授業が終わっていた。

数分前は資料運びを教授に頼まれ、急いでいたらつまずいて転んでしまうなど。

今日一日落ち着かなかった。

銀八の編入試験合格発表の日、故に。


「(…銀八……)」


鞄から携帯を取り出して、待受画面を見つめる。

電話もメールもまだ入っていない。


ブーブーブー、


「っ…!?」


突然手のひらで携帯が震え、思わず身体が一瞬痙攣した。

表示された名前を見て、素早くボタンを押す。


「…もしもし!?」

「あ、俺。出るの早いね〜。もしかして構えてた?」

「っ、そんなことするか!偶然じゃ、偶然に

「受かった」

「……え?」


月詠は言い返すのを止め、次の言葉を待った。


「だから受かったって。編入試験」

「…本当に…?」

「銀さんはやれば出来んだよ」

「じゃあ、春から…」

「月詠ん家の近くに住むとこ借りっから。あとは飯とかはお邪魔しちゃおうかなーなんて」


電話の向こうで、銀八はいつもと変わらない声で話している。
鞄は手から滑り落ち、月詠の携帯を持つ右手が震えた。


「っ…ひっ…」

「…月詠?」


銀八は耳を澄ませると、小刻みに呼吸する音が聞こえた。


「つく…泣いてんの? 」




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