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それは、春の嵐のように、突然やって来た。
「…沖田君が…留学……?」
清掃の時間に、隣のクラスの九ちゃんが教えてくれた。
「ああ。離任式の日に旅立つらしい」
「離任式…そう、なんだ」
「…良いのか?」
「え、何が…?」
「空は…彼奴のこと」
「でもほら、別にもともとこれから大学で離れちゃうし…留学なんて、もっと…。だから良いんだ。このままで」
「…空が言うなら…」
「ありがとうね、九ちゃん」
清掃終了のチャイムが鳴る。
「あ、チャイム。じゃあ、またね、九ちゃん。…ありがとう」
「うん、また」
帰りのホームルームが終わった途端、私の足は自然と保健室へ向かっていた。
「…空?」
「失礼します。今宜しいですか」
「あぁ。…珍しいな」
「何がですか?」
「用がある時だけ、空は保健室に来るじゃろう。気を遣ってな」
「…そんなことないですよ」
「座りなんし。ココアで良いかのう」
差し出された椅子と、月詠先生の笑み。
「…先生、先生…!私…」
胸が熱くなって、ぼろぼろと落ちていく。
私の頭をそっと撫でると、先生は保健室のドアに相談中の紙を下げた。
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