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「で、私がぶっ潰したネ!」
「そんな虫が教室にいたんだ…」
「神楽やりおるのう」
「まー私にかかれば、チョロいもんネ。ツッキーおかわり」
「これ飲んだら帰りなんし。直(ジキ)に日が暮れる。空も終わったのか」
「あ、はい」
お茶を頂きつつ、残りを仕上げる。
神楽ちゃんは豪快に飲み干すと、空になった紙コップを机に置いた。
「ツッキー、それ何アルか?」
「…これか?」
「先生ネックレス付けてたんですね」
「しかもシルバーリング…さては男から貰ったんだろ。ツッキーも隅に置けないネ」
「……さぁ。わっちの話は良いから、帰りなんし」
スッ、と立ち上がると、月詠先生はカーテンを閉め始めた。
「……あ、先生。色鉛筆ありがとうございます」
「空帰るアル。ご馳走ツッキー!」
「ご馳走様でした」
「うむ。気をつけてな」
「さよーならー」
「先生さようなら」
神楽ちゃんの後に続いて出る。
ドアを閉める瞬間、先生をちらりと見た。
見えたのは後ろ姿だけ。
『…さぁ』
そう呟いた月詠先生。
シルバーリング。
見られたくない。
触れてほしくもない。
けど、手離せない理由がある。
「………」
私の中で、あの日の先生が脳裏に浮かんだ。
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