ねぇ、知ってる?

 
久しぶりに水族館へ行った。

というよりは、行かざるを得ない状況だった。


「見ろよ、この魚。変な顔」

「…そうじゃな」


自分の家に来ていた晋助に、母親がチケットを二枚渡したからだ。

直ぐに自分を誘った幼馴染みの笑みと、母親の視線。

首を横には振られなかった。


「お、もうすぐイルカショーじゃねェか。行こうぜ」


会場へ進む晋助。

後を追うように、ついて行くしかない。


「月詠、」

「ん?」


適当に空いていた席に座る。


「──俺


ワッ、と歓声が上がる。

思わず前を見ると、イルカが数匹高くジャンプをしていた。

着地と同時に、大きな音と水しぶきが客席へ飛び込む。


「おお…!見たか晋助?」

「あぁ」

「凄いな。イルカがあんなに飛び跳ねるのを見たのは初めて…あ、ほら、また…!」


目の前の光景に意識を奪われていた。


「良かった、」

「え?」

「月詠が笑ってくれて」

「…しん

「ほら、見てねェと見逃すぞ」


そこで会話は終了。


「……」


横目で隣を見る。

晋助は本当は、優しい。

不意に見せられた素顔に、胸が苦しくなって、残りのショーは全く集中出来なかった。

──────────────
好きなんだよ、幼馴染みとして。


2011/05/09

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