5
「好き、だ」
他に誰も居ない教室で、静かに彼の声が響く。
カタン。
思わず落としてしまった黒板消しが場違いに感じた。
「えっと…え?」
「え?じゃねーよ。ちゃんと聞いてた?」
やれやれ、と言いたげに肩を落とす銀髪のクラスメイト。
聞いてたと思う、と返せば顔を上げて此方を怪訝な様子で見ている。
そんな風に見られても困る。
未だに自分の耳に届いた言葉が信じられないのだから。
「…本気で…ありんすか?」
「冗談でこんなこと言ったりしませーん」
「…そうか」
止まっていた手を動かし、黒板の文字を消してゆく。
「返事は?」
掃除を続けても、気は紛れないことくらい知っていたが。
「…ごめん、」
「……何で?」
「…ごめん」
「…んだよソレ。それだけじゃ分かんね
「ごめん」
「おいっ…!」
嬉しかった。
あの時自分がどれほど嬉しかったなんて、銀時は知る筈もないけれど。
自分も好きと伝えたかっただけなのに、出てくるのは謝罪の言葉ばかり。
やはり無理だ。
変わる、なんて。
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