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「好きな人、いるとか?」
「……、」
彼女は何気ない一言を発しただけ。
それなのに、動揺している自分が居る。
「もしかしてビンゴ!?え、誰、誰?」
「居らぬ」
「いーじゃん、教えてよツッキぃ」
「居らぬのに名前を言える筈がないじゃろう、戯け」
「チャイム鳴ったぞー席に着けー」
思わずナイスタイミングと心で呟く。
小テストを抱えた先生は教壇に立ち、だるそうにプリントの枚数を数え始めた。
「ほら、前向きなんし」
「あーもうっ」
口惜しそうにしつつも、しぶしぶ前を向く彼女。
『好きだ』
「……、」
思い切り首を横に振ると、少し気分が落ち着く。
何かが脳裏を霞めた気がしたが、気のせいだと言い聞かせた。
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