*新しい仲間


渡された入部届には名前の見覚えのある名前が書かれていた。
同じ1年ということで過去の実績や基礎体力の確認を仰せつかった名前はトレーディングルームへ入っていく。
この時間は他の1年は外を入っている時間だ。今日が初めての彼だけがローラーを回している。

「石垣光太郎くん」

声を掛けると石垣がこちらに気付いてペダルを回していた足を止めた。顔から流れる汗を拭いてロードから降りる。入部届を提出した時にマネージャーが来ることを聞いていたようだ。

「1年マネージャーの苗字名前よ。よろしくね」
「よろしく頼みます!」

きっちりと90度。同じ年だというのに頭を下げられてしまった。
真面目だ。
しかも爽やかだ。

(新鮮……!)

真面目と爽やかさが同居する人間は残念ながら名前の周りにはいなかったタイプだ。福富は間違いなく真面目だが爽やかとは言い難い。東堂は真面目で一見爽やかそうに見えるが巻島が絡むとただただ面倒だ。荒北はどちらも当てはまらない。
そんな失礼なことを考えていると、石垣が怪訝な表情を浮かべてしまったので気を取り直して役目を果たすことに集中することにした。

「まずは基礎的なところを確認させて欲しいんだけど」

順を追って確認していくと、彼が真摯に自転車と向き合ってきたのがわかった。インターハイに出るまでに彼がどれだけ努力を惜しまなかったか。そして我慢を続けてきたのか。自転車の技術だけでは補えないものが彼には備わっていた。

「あの御堂筋くんが認めるわけだ」

思わず出た呟きに石垣がハッとして顔を上げる。「何で御堂筋のことを」と尋ねかけて「ああ」と自ら納得する。

「俺の出身高校…御堂筋は有名だからな」

確かに去年のインターハイで御堂筋は有名になった。だがそれだけではない。

「去年のインハイ、私は石垣くんの走りも見たよ」
「えぇ!?」

その驚きようにこちらがビックリしてしまう。
マネージャーが確認に来ることは聞いていたが、そのマネージャーがどんな人間かは聞かされていなかったらしい。石垣に説明をしようとしたところでトレーニングルームのドアが開く音がした。

「石垣クンじゃないか!」
「来たのか石垣」

外回りを終えたらしい新開と福富がロードを抱えて入ってくる。
すでに光太郎くん呼びしている新開に問いたいことはあるが、彼が人タラシなのは今更だ。
その新開はスタスタと名前に歩み寄り手元に集められたボードを見てニヤリとする。

「名前から見て石垣クンはどう?」
「とてもいい選手。それに真面目で爽やか」
「箱学にはいなかったって言いたいのか?」
「あれ?いた?」
「……」

若干の恥ずかしさもあるのか憮然とする新開に苦笑する。確かに新開が爽やかなイケメンだと騒がれていたことは否定しない。何度となくその場面には遭遇した。

「誰かさんは何度も授業をサボってたから真面目とは言えないかな」
「あれは名前にも責任あるぜ。煽「そういうところ!!」」

ボードで新開の額を叩く。
放置してしまった石垣を慌てて振り返ると不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「私、箱学のマネージャーだったの」

それを聞いて先程のインターハイの走りを見たということにも合点がいったようだ。パッと顔が明るくなった。正直な人だ。

「苗字は優秀なマネージャーだ。特に練習メニューの考案は申し分ない」
「福富…!!真面目っていうのはこういうのだよ、隼人!」

名前の指摘に困ったように新開が福富に助けを求める視線を投げるが、気付いているのかいないのか華麗にスルーされた。
そんな3人のやり取りに石垣がプッと吹き出す。

「何や箱学ってもっとギチギチな関係かと思うてたんやけど、普通の高校生だったんやな」
「いや、普通かはちょっと…」
「そこは肯定しようぜ、名前」
「何が普通かはわからんが、同じ自転車でトップを目指す者であることは確かだ」

福富の言葉に石垣が頷く。真面目同士なんとか収まったらしい。
名前がデータを見直して今日はここまでにしておこうと区切りをつける頃には2人で談笑を始めていた。
それを眺めていると、新開がそっと耳元で囁いた。

「石垣クンにも発破をかけるのか?」

挑発して本人の気持ちを誘導する。名前がこれまで見込みのある選手にしてきたことの一つだ。だが名前は首を横に振る。

「彼には必要ないでしょ」

メンタル面は非常に目を見張るものがある。おそらくそれが彼にとって一番の武器だ。
名前が断言したことで新開がホッとしたように眉を下げた。

「まさか隼人…」

不自然にフイとそらした新開の頬はほんのりと赤い。それは名前の予想が当たっていることを示していることに他ならない。ニヤケてしまうのは見逃してほしい。
しばらくじーっと見つめていると、根負けした新開が大きく息を吐く。

「悪かったな。嫉妬深くて」

不貞腐れた態度にますます顔が緩んでしまう。

「悪くないよ。嬉しい」
「〜〜っ!!そういうところ!!」

頭を抱えてしゃがみ込んでしまった新開に石垣が心配して駆け寄る。その横で「いつもことだから気にするな」と福富が変わらぬ表情で立っていた。
これがこれから先4年間切磋琢磨する仲間だ。
クスクスと笑って名前は集まったデータを持ってトレーニングルームを後にした。




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