課題とご褒美


「何や悪いなぁ」
「本当に悪いと思ってないでしょ、鳴子くん」

夏休みの課題が終わらないと鳴子くんから連絡が入ったのが昨日の夜。状況を教えてもらうと即取り掛からないと終わらない量が残っているようで、今日慌ててこうして学校の図書室で待ち合わせをした。

「鳴子くんが部活に一生懸命なのは知ってるけど、宿題やらないと二学期早々に補習になっちゃうよ」
「だからこーして苗字サンに教わってるんやないか」

カッカッカ!と笑う鳴子くんをそれ以上責める気も起きなくて、仕方なく課題を進める。
しばらくは真面目な顔をしてノートに向き合っていた鳴子くんだったが、1時間もすると「もーアカン」と机にうつ伏せになってしまった。

「鳴子くん、終わらないよ?」
「アカン。こんな量普通にやって終わるわけない」
「今まで放置した鳴子くんの自業自得じゃない?」
「それはこの際置いておくとして、何か褒美でもあればできる気ィするわ」

ニヤリと悪い顔をされて言葉に詰まる。

「自分の課題でしょ」
「目の前の餌は大事や」
「いやいや餌とか言われても」

私の抗議は耳に入っていないのか、鳴子くんは勝手に話を進めていく。

「苗字サンがご褒美くれる言うたらワイ頑張れるわぁー」

ドキリとする。
それは勘違いされても仕方ない言い方だ。だが内心の動揺などおくびにも出さず努めて冷静に返す。

「課題はご褒美のためにするわけじゃありません」

すると鳴子くんは私の返答を予想していたかのようにもっともらしく頷く。

「そうやなぁ。でも実は今日ワイ誕生日やねん。そんな特別な日に課題をやるんやからご褒美くらいいいやろ」
「誕生日プレゼントならあげるから課題もしっかりやってよ」

ここで初めて鳴子くんの目が見開かれた。

「プレゼント、あるんか?」
「あるよ」
「ワイの誕生日知ってたんか?」

好きな人の誕生日を知らないはずがない。
昨日の夜に連絡をもらって、渡せるかもわからないプレゼントをずっと用意していた私がどれくらい舞い上がったか、鳴子くんは知らないだろう。
…ということを言えるわけもなく黙り込む。
だがこの場合、沈黙は肯定だ。

「最高のご褒美なんやけど…」

先程までの勢いが嘘のように小さな声になった鳴子くんは真っ赤な顔をして、それでもまっすぐ私を見つめていた。

「ヨシ!こんなんチョチョイと終わらしたるわ!」

パンと痛いくらいの音で頬を叩き、制服の半袖の袖を捲り上げて意気込む。しかし口元は緩んでいるし、目尻は下がってしまっている。

「苗字サン!ここ教えてや」
「え?あ、うん」

一心不乱に信じられない速度で課題を進める鳴子くんに呆然としながら、確か『浪速のスピードマン』と言われていたなぁと妙に納得をしてしまった。
そして課題を終えた彼がプレゼントを渡そうとする私に

「ワイと付き合うてください!!!」

と図書室中に響き渡る声で告白をすることになるのは、あと数時間後のこと。




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