*よく似た2人


東堂が部屋のドアを開くと珍しく荒北が一人で立っていた。

「何だ荒北。おまえが一人でオレところに来るなんて珍しいな」

率直な感想を述べると、荒北は否定はせず手に持っていたノートを掲げる。

「明日提出の課題でわかんねーとこがあんだよ。教えろ」
「それが人にものを頼む態度か。いつもならフクに聞きにいくだろう」
「福ちゃんは明日模試だから邪魔したくねぇ」

それならば仕方ないと東堂が部屋に促したが、遠慮なく座った荒北の持っていたノート見てふと思いついたことを聞く。

「隼人のところは行ったのか?」

荒北の持っているノートは数学だ。東堂に聞くよりは新開の方が適任だ。だがその問いかけに初めて荒北の顔が歪んだ。

「行った。行ったけど入れねぇ」

その言葉の意味するところは東堂にもすぐわかった。

「ああ。苗字がいるのか」

新開の部屋には時折恋人である苗字が訪れる。荒北だけでなく東堂や福富も気にせず苗字に会いに行くとこもある。新開はもちろん微妙な顔をするのだが、苗字は東堂たちにとっても大事なマネージャーだ。話を聞きたいこともある。
1つだけ荒北が東堂たちと違うところは鼻がきくところだろう。

「部屋の前に行ったら甘ったるい臭いがして近づくのも嫌だね」

実際その場に居合わせたこともあるのだが、東堂たちなら気付かずノックをしてしまうところを荒北はニオイで踏みとどまることがある。荒北いわくそういう時は十中八九行為中で、バツが悪くなるのは彼らの方になるのだ。

「フクが模試ということはあいつらも模試ではないのか」
「そーだろな」

シャーペンをクルクル回しながら相槌を打つ。
推薦の新開はともかく、苗字も随分と余裕だ。まぁ彼女の成績なら、少なくても今の荒北の志望校判定よりは良い結果が出ているはずだが。

「荒北」
「ンだよ」
「怒られるのを承知で聞くが、おまえは苗字のことを好きではなかったのか?」

荒北の指からシャーペンが落下する。
まさかこのタイミングで、東堂がその話題を振って来るとは予想していなかったのだろう。
一人でいることが多い荒北が珍しく苗字のことは信頼して任せている。福富以外で荒北のことを制御できるのは苗字しかいない。
女子だからというわけではないことは他のマネージャーやクラスの女子への態度との違いでわかる。明らかに苗字に対して甘い。
だから少なからず部の中にも荒北は彼女に好意を抱いているのではないかと勘繰る人間はいる。

「オレは別にあいつをそーゆー対象で見てねぇよ」
「それにしては苗字贔屓だな」

苗字は新開と付き合っている。荒北は新開と同じレギュラーメンバーだ。マネージャーのことで軋轢が生まれるのは好ましくない。東堂はこのインターハイ前にはっきりさせておきたいと思っていたところだった。
怒鳴られることも覚悟していたが、荒北は静かにため息を一つだけついて口を開いた。

「あいつさァ福ちゃんに似てんだよ」

福富と苗字。あまり共通点はないように思える。

「見た目とか性格じゃねーよ。見てるモンが同じなんだよ」
「よくわからんな」
「福ちゃんも苗字もただ前を向いてんだろ。バカみてぇにヨ。んでもって上辺の言葉には動かされねぇ。人の真ん中にあるモンを見逃さねぇ」

荒北はそういう存在にとことん弱い。苗字に甘いのは仕方ないと言える。

「なるほどな。あの2人が存外気が合っているのはそのせいか」

根幹が似ていれば言葉少ない福富のことも理解できるだろう。

「だからァ、オレはあいつに敵わねーの」

東堂は「よく理解したよ」と笑った。
恋愛ではない。だが荒北の中では特別な存在だろう。もしかすると恋愛以上に。
そんな存在に2人も出会えたことは僥倖だ。

「つまらないことを詮索して悪かったな」
「ンだよ、気持ち悪ィな。っつーか今の話誰に言うなよ」
「言わないさ。さて、課題をやるか」
「おう。さっさと教えろヨ」

もうこの話題を出すことはないだろう。下世話に勘繰る人間がいるなら放っておけばいい。偉そうに教えを乞う荒北に東堂は苦笑しつつ、正直に話してくれたことに免じて黙って課題を教えることにした。




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