*雨の日のまどろみ


雨の休日。台風が近づいているとかでなかなかの威力のある雨足に今日の練習は中止である連絡がきた。
買い物に出かけたら物の数分で濡れ鼠になるので家にあるもので適当に済ませようとした時、ピンポンと来客を告げる音がした。

「隼人?」

ドアスコープ越しには髪から水を滴らせる新開が立っていた。勢いよくドアを開けて引き入れる。

「どうしたの!?」
「練習休みだから来た」
「ビショビショじゃん!とりあえず風邪引くからお風呂入って!」
「一緒に入ってくれるか?」
「馬鹿言ってないで入って来て!」

名前の剣幕におとなしく風呂へ向かう。シャワーの音がし始めたのを確認してバスタオルと着替えを置いておく。
年々新開の着替えが増えていく。オールシーズン分ある上に下着どころか靴下まで置いてあるので不自由はない。

「名前ー」

背後から腕を回される。
風呂上がりのいい匂いが鼻をくすぐる。
それにしてもちゃんとTシャツを出したはずなのになぜ上半身裸なのか。

「こんな天気で来ることないのに」
「こんな天気だからだろ。誰にも邪魔されないで2人っきりだ」

首筋に優しく唇が触れる。
どうやら今日は甘えモードらしい。

「じゃあ今日はのんびりしようか」

名前の提案に微笑んでTシャツを着る。本当にゆっくりするつもりのようだ。
確かに最近ハードな練習が続いていた。その上大学生活が折り返しに入り進路のことも考えなければならなくなっている。名前には言わないが新開が少しだけ悩んでいることは察していた。

「ココア飲む?」
「飲む」
「クッキー焼こうか?」
「今日は随分甘やかしてくれるんだな」

ベッドに腰掛けた新開に手招きされる。目の前に立つとギュッと抱きしめられた。胸に顔を埋めた新開はそのまま動かない。
名前はゆっくり茶色の柔らかな髪を撫でる。
耳に届くのは窓の向こうの雨の音と、聞こえるはずない自分の鼓動だけ。時間が止まっているような錯覚に、名前はそれでもいいかと目を閉じた。
どのくらいそうしていただろうか。
新開が顔を起こして名前を見上げた。

「名前」
「ん?」
「高校の時も言ったけど、オレは名前と離れたくないんだ」
「私もだよ」
「それってさ…どこでも一緒に来てくれるの?」

青い瞳のずっと奥に潜んでいる揺らぎが見えた。それは一瞬で消えてしまったけれど。
何も迷うことはない。
とっくに決めている。
だから名前はすっと息を吸ってから微笑んだ。

「隼人が行くところならどこでも行くよ」

自分でも驚くくらい凛とした一言だった。

「そっか」

それだけ言って名前をそっと引き離す。そこにはいつもと何も変わらな新開がいた。

「雨、止まないな」
「止んだらもったいないよ」
「そうだな」

こんな日もいい。
こぼした不安は雨に流してしまえばいい。
次に出てくるのは燦々と照る太陽だ。
そうすれば進んで行く道が見えてくる。それまではこうして微睡みの中でお互いの体温を頼りに寄り添うのもいいんじゃないだろうか。




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