・If she went to the blind date


「荒北、苗字と喧嘩したそうだな」

サイジャに着替え終えた金城が苦笑いで尋ねる。荒北は敢えて何も言わず着替えを続ける。

「何じゃまた喧嘩か?懲りんのぉ」

待宮の言い方は気にくわないが、荒北と名前の喧嘩が多いのは事実だった。1ヶ月に1度はしているはずだ。小さな言い合いはしょっちゅうで数えるだけ時間の無駄だ。

「苗字も気が強いから仕方ないかもしれないが…」
「どーせ荒北が悪いんじゃろ。さっさと謝っとけ」
「んだよオレのせいかよ!」

金城も待宮も基本的に名前の味方だ。まぁそういうものだろう。荒北も同じ立場ならそうする。

「今日、苗字は飲み会だそうだ」
「金城はよー知っとるのぉ」

きっと名前が荒北への腹いせに連絡したのだろう。飲み会と言っているが、おそらく合コンだ。全て荒北への当てつけに違いない。

「オラ走り行くぞ」

ビアンキに跨って前方を見据える。
快晴。
しかし荒北の心はどれだけ走っても明るい場所へ辿り着かなかった。


***


名前が合コンに行っている。しかし荒北はシフト通りにバイトへ入り、頼みこまれた残業は断り店を出た。

「このへんだな」

そこそこオシャレな店が並ぶ大通り。ブラブラとうろつく自分は酔っ払いと不審者のどちらに見えるだろうか。
5分ほど歩き、開けるとベルの鳴る店へ入っていく。奥の方から盛り上がる男女の笑い声が聞こえる。当たりだ。
店員が声をかけてくるのを無視して突き進む。店の最奥の開けた空間に彼女はいた。

「名前」

名前はビール片手にポカンと口を開けていた。合コンで女子がジョッキビールはないだろ、と心のなかで溜息をつく。

「帰んぞ」

たったそれだけ告げて背を向ける。用事は済んだ。

「靖友…何で…」
「お迎えだケドォ?いらなかったァ?」

まだ座ったままの名前を振り返る。
顔が赤い理由を聞いたら怒るだろうか。

「早く来いよ。置いてっからな」
「あ、待って!」

慌ただしくバッグを掴んだ名前が追いかけてくる。特に歩調を緩めことなく大通りを歩く。やっと追いついた名前は小走りのまま横に付く。

「どうしてお店わかったの?」
「午後の講義ん時に幹事に聞いた。なぁ名前」

荒北が足を止めて名前に向き合う。

「もう行くなヨ」
「……うん」

小さな手をとって歩き出す。今度の歩幅は狭い。

「靖友」
「ン?」
「好き」
「知ってンヨ」

夜道にクツクツと荒北の笑い声が響く。手を引かれて名前がバランスを崩すと、そのまま胸の中に閉じ込める。

「好きなの、オマエだけじゃねーし」
「…知ってる」
「ホントかよ。振り回しやがって」
「ウソ。わかってない……かも」

名前の言葉の意図を汲んでニヤリと笑う。

「なら、わかってもらわねーとな」

まずは手始めに長い長いキスをした。




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