*デザートより甘いもの


「いただきます」

声を揃えて手を合わせる。
名前の部屋で2人食事をする。今ではもう見慣れた光景だ。新開がどんどん箸を進めて行くのでどうやら今日の献立は成功したようだ。

「コレうまいな」
「ほんと?よかった」
「名前、料理上達したよなぁ」

一人暮らしを始めて1年と少し。控えめに言って下手だった料理を半ば強制的にしなければいけない状況になり、何とか人に食べてもらえるまでになったのが最近だ。

「最初は焦げたり生だったり散々だったからね」

高校時代は東堂に何度も叱られたなと苦い思い出が蘇る。

「お菓子はきっちり作れるんだから同じようにやればいいんじゃないか?」
「毎食そんなことできないよ。そこまで几帳面じゃない」

お菓子作りはたまにやるからいいのだ。そもそも名前は火加減の調整が苦手なのであって味音痴というわけではない。

「自分のためだったらやっぱり頑張れないなぁ。手抜きしたくなるもん」
「それ、オレのためって聞こえるけど」

新開の指摘に自分の発言を思い出してみる。
自分だけの食事のためには作れない。新開に喜んでもらえるのが嬉しいから作る。

「やっぱり自分のためかな」
「オレのためでいいのに」

新開は名前の返答にふてくされながら唐揚げを咀嚼する。

「オレ、名前と飯食うの好きなんだよね」
「隼人はいつだって食べてるじゃない」
「食卓って意味。すごく心地いいんだ。視覚と嗅覚と触角、みんなあったかくて満たされてるなって思えるんだよ」

そんな風に考えたことがなかった。
新開が目の前にいて美味しそうに食べている。名前にとってはもう当たり前の光景になっているそれが、今でも新開の心に何か与えているのであれば嬉しいと素直に思う。

「私も隼人と食べるの好きだよ」

本当は食事でなくてもいいのだ。隣にいるだけで充分だ。でもそんなことはきっとわかっているのだろう。


***


「さて、デザート食べるかな」

皿を洗い終えた新開が振り返る。

「冷蔵庫にゼリーあるよ」

名前が告げるとこちらに向かっていた歩みを止めた。

「……あるのか、デザート」
「あるよ?」
「……」
「……あ!そういうこと」

名前がクスクス笑うと、困ったように新開が頬をかく。

「遠回しに断られたのかと思っただろ」
「隼人が遠回しに誘うからでしょ」

寄りかかっていたベッドが新開の体重で軋む。

「で、食べる?デザート」
「どっちのこと言ってるんだ?」
「どっちでもいいよ。隼人の好きな方」
「オレの好きな方だったら決まりだな。…わかってて言った?」

会話の流れではデザートは名前のはずだ。
だが新開こそどんなデザートよりも甘い。表情も言葉も匂いも仕草も全て甘くて名前を病みつきにさせる。
降り注がれるキスに名前はもっと味わいたくなり、それは深く深くなっていった。




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