*合コンの後で


「騙したな」

チェーン店にしては悪くない味の唐揚げを摘む。ビール一杯の後は明らかに薄い甘い酒。よくある大学生の飲み屋だ。
そして目の前に並ぶ女の子。
よくある合コンの風景だ。

「悪かったよ。だって合コンって言ったら新開来ないし」
「当たり前だろ。彼女いるんだぞ」

どうしてもと頼みこまれたのと、ちょうどバイトもなかったので承諾した。普段からゼミの飲み会にはあまり参加していなかったので埋め合わせのつもりだったのに、なぜこんなことになったのか。合コンだと知っていたら絶対断りを入れたのに。

「おまえ人気なんだよ。いてくれるだけでいいんだ」
「それはそっちの都合だろ」

言うほど悪く感じていなそうなゼミ仲間の横で黙々と皿を平らげていく。新開が大食漢であることを知らない彼らは目を丸くしている。
前に座っている女の子も最初のうちは目をキラキラさせて話し掛けてきたが、彼女持ちの上乗り気でないことで勢いは半減した。そして今は新開の食べっぷりに若干引いている。

「新開って彼女の尻に敷かれてんの?バレたら怒られる?」

どうだろう、とイメージする。

「いや、怒りはしないだろうな」

名前は怒らない。少なくても今日のことは。ゼミの飲み会だとは話していたが、経緯を説明すれば信じてくれるだろうし同情すらされるだろう。

「じゃあいいじゃん」
「何でだよ。そういうことじゃないだろ」

怒られないから。バレないから。それは違う。

「オレが嫌なんだよ。そもそも楽しくないし、相手にも悪い。オレが誠意を見せられるのは名前だけだからな」

ゼミでの新開は飄々としていて当たりの良い青年だ。その側面しか知らない彼らには彼が確固とした意志を曲げない類の人間であることを知らない。

「新開って彼女と3年だっけ。マンネリとかねぇの?」
「ないなぁ。オレは毎日好きだと思うけどな」
「エッチとか飽きねぇの?」
「それもないな。見てるだけで勃つぜ」

偽りない本心なのに宇宙人を見るような目だ。いつもならその目は新開の食欲に向けられるはずのものだ。

「モテるのにもったいねぇ…オレが新開なら遊びまくる」

モテたら遊んでいいわけではないだろうに。同じ年の男なのに感覚はだいぶ違うものだ。
ふと時計を見ると21時になっている。そろそろ時間だろう。新開はポケットから携帯を取り出した。


***


「合コンだった?」

店を出る前に連絡をしていたので、そのまま名前の家に向かった。当日夜の急な来訪を名前は快く受け入れてくれた。
玄関で靴を脱ぐよりも早く口を開いて出てきたのは「今日の飲み会、合コンだった」という包み隠さない報告だった。

「ごめん」

新開が頭を下げる。

「事情は何となくわかるから説明しなくてもいいよ。お疲れ様」

新開の脱いだコートを受け取りながら名前がクスクスと笑う。

「大学生の飲み会なんて少なからず合コンみたいなものでしょ」
「騙すのはよくないだろ」
「それしか方法がなかったんだよ。合コンって言ったら隼人は絶対行かないもん。モテるのにもったいないって言われなかった?」

何となくどころか見てきたような把握ぶりだ。返答のないことを肯定と受け取って名前は今度こそ声を出して笑う。

「オレが合コンに行かないって思ってる?」
「思ってるよ。だって隼人は私のこと本当に好きだもん。違う?」
「違わない。…名前は何でもお見通しなんだな」

新開が感心して言うと、なぜか名前が少しムッとした顔をする。

「私はそんなに大人じゃないし。同じだからわかるだけ!」

バスタオルが顔面目掛けて飛んできた。風呂に入って来いということだろう。今夜のお泊りは許されるらしい。

「……名前」
「何?」
「オレ、名前のこと好きすぎて困ってるんだ。昨日より今日の方が好きだし、毎日抱きたいし、オレのことだけ見てればいいのにって思ってる」
「……っ」
「名前も同じってことでいい?」

顔にかかったバスタオルをどけて見えたのは顔を赤く染める名前で。
こんな反応を返されてしまうんだから飽きるなんてとんでもない。
昨日より今日の名前が好き。
今日より明日の名前が好き。
1年後、10年後がどうなっているかなんてわからないけれど、この想いが膨れ上がっているだろうことだけは確かなのだ。




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