*いつかの約束を
2人でゆっくり過ごしたい。
そう言った本人の希望もあり、誕生日は名前の部屋で手作りケーキを振る舞うことにした。
もちろんプレゼントも用意して渡した。
豪華さはないがどの瞬間も新開は満足そうに笑っていた。
「でもどことなく違うんだよね」
「ん?何がだ?」
ケーキとは別に作っておいたクッキーをつまみながら新開が首を傾げる。
「隼人が何となくぎこちないと言うか…」
うまく言えずに悩む名前を見て新開は優しく笑った。
「どれだけオレのことわかってるんだろうな。名前は」
新開の腕に引き寄せられ、大きな手が名前の頬を包み込んだ。
「キスしていい?」
いつもならそんなことは聞かない。
やはり何か違うと感じながらも名前が微笑むと、触れるだけのキスをしてから新開は真っ直ぐ名前を見つめる。
「名前」
「何?」
「あの…さ」
視線ははずさないものの、言い淀んで口を閉ざしてしまう。
「隼人、大丈夫だから」
名前が力強く言うと、新開は目を閉じて大きく息を吐く。そして再び開いた青い瞳には意志のある光が蘇っていた。
「名前、受け取って」
ポケットから出したのは小さな小箱だ。
中に入っているものが何なのかは尋ねるまでもない。
予想外のことに驚いて目を丸くする名前に新開が続ける。
「今すぐってわけじゃないんだ。まだ学生の身分だし、こんな形で縛るのも良くないってわかってる。でも…」
「隼人がはめてくれる?」
「いいのか?」
まだ迷いのある新開に黙って首肯する。
「本当はさ、もっとちゃんと言葉にして言わないといけないんだよな。でもオレはまだそんな先の未来を約束してあげられない」
「それでもいいよ」
「名前がこういう形だけ見せつけるみたいなこと好きじゃないのも知ってる」
「形だけのものだなんて思わないよ。これは隼人の心でしょう?だから私は受け取るの」
名前の頬に涙がつたう。新開がそれを指で拭うが溢れ出てくるものは止められない。
「私は約束よりも隼人の心が欲しい」
少し震える新開の手でゆっくりと指に通される。
いつの間に調べたのか、それは名前の指にぴったりとはまった。
「いつかは約束させて欲しい」
「うん。待ってる」
左手を掲げて指に光るそれを眺める。
「今日は隼人の誕生日なのに私がもらっちゃっていいの?」
「オレも名前の気持ちが欲しかったんだ」
コツンと頭を肩に乗せてくる。
名前の気持ちなんてとっくに渡しているのだが、新開が言いたいのはそういうことではないだろう。
「隼人が欲しいならあげる。気持ちも体も未来も」
「そんな軽く渡すもんじゃないぜ」
新開の顔からはすっかり緊張が抜けている。
今日ずっと感じていた違和感の正体は、彼の緊張だったのだと知る。
だから名前もからかうつもりで言ったのだ。
「軽くないよ。私、実はすごく重いんだから」
「ふーん…?」
すると突如新開が名前の体を持ち上げた。
「軽いな」
「そういう意味じゃないし!」
「体もくれるんだろ」
「……あげる」
「素直だな」
「誕生日だからね」
そっとベッドに降ろされる。
時折チラチラと視界に入る左手の輝きが眩しい。もっとじっくり見ていたいが、今は熱く求めてくる新開のキスを受け入れることにした。
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