*メンテナンスはほどほどに


お昼を食べ終えて教室に行ったら誰もいない。もしかしてと確認してみると急遽休講になっていた。せめて前日には休講の連絡が欲しいと思いつつ、自転車競技部の部室へ来てみると、ここにも誰もいなかった。
話し相手もいないので、仕方なく次の講義までの時間を潰すべく片付けやら準備やらをしようとしていたところに、ガチャリと部室のドアが開く音がした。

「珍しいな。名前がこの時間に部室にいるなんて」
「突然休講になって時間を持て余してるの。隼人は?」
「オレは元々この時間講義ないんだよ」

ということは部室で自転車のメンテをするか図書館で本でも読んでいるのだろう。今日は前者か。

「メンテ手伝おうか?」
「いや。時間あるから大丈夫だ」

それならばと今日の練習メニューに目を通す。大学の練習メニューも慣れてきた。覚えることはまだまだたくさんあるが、それも含めて楽しめている。

「なぁ名前。やっぱりメンテ手伝ってくれないか」

手伝ってくれという割に明るい声が引っ掛かる。恐らくあまり可愛くないであろう顔を向けると、メンテ道具を手にしていない状態の新開がニコニコと立っていた。

「手伝わない」
「そう言わずにさ」

何人もの女の子を魅了してきたであろう顔が徐々に近づいてくるが、名前は立ち上がって同じだけの距離を取り続けた。負けじと新開も歩を進めてくるので、部室の中をぐるぐる回るはめになった。

「メンテだって言ってるのに」
「自転車のメンテなら手伝うけど、絶対違うでしょう?」
「さすが名前」
「褒められても嬉しくない」
「で、名前は何のメンテだと思ってるんだ?」

痛くないギリギリの強さで手首を掴まれる。痛ければ逃げ出す口実ができるのに、それをさせない。

「名前」
「どうせ隼人のメンテでしょう?選手のメンテナンスも重要とか言って」
「ヒュウ!当たりだ」

嬉しそうに名前を抱きしめて軽いキスを落としてくる。
視界には青い瞳、鼻腔は甘い匂いで埋め尽くされて、体を包み込む腕は逞しくて心地良い。

「もっとして欲しそうだな」

否定の言葉は出てこない。そんなことは承知で口にしてくるのがいやらしい。
さきほどよりも深いキスは回数を重ねるごとに更に深くなる。徐々に名前の息遣いが乱れてくる。気付けばいつの間にか名前のシャツのボタンは半分以上開かれ、新開が胸元に顔を埋めてきた。

「隼人!ストップ」
「ちょっとだけ」

名前の制止もむなしく胸元に赤い痕がつく。2個3個と増えていき、ブラをずらして舌を這わせ始める。

「隼人!」

頂を舌で転がしてくるのに合わせて、名前の体が疼き始める。新開の手が足に伸びているのもマズイ。

「隼人、本当にもうやめて」
「感じやすいなぁ。名前は」
「そんなの…っ、隼人のせい……」
「そうやって煽るし」

とうとう新開の手が名前の中に入ってきて的確にいい場所に触れてくる。

「いつ誰が来るかわからないからな。すぐ終わらせるよ」

それなら最初からこんな場所でしなければいい。反論が頭をよぎるが一瞬で快楽の渦に飲み込まれてしまう。この体の全てを知り尽くしている新開には名前の思考を奪うなんて簡単なことだろう。
無骨な指がある場所に至った瞬間、名前はたまらず声を上げた。


***


「悪かったよ」
「本当にそう思ってる?」
「もっとゆっくりしてあげたかったってのはあるな」

力が入らない名前の服を整えながら新開が微笑んだ。絶対悪いと思っていない。

「隼人はいいの?」

こんなことを聞くのは藪蛇なのだとわかっている。だが自分一人だけというのはやはり気にかかる。

「オレはいいよ。カワイイ声が聞けたし、今日はいい走りができそうだ」

新開が背伸びをしながら立ち上がる。
しかし彼が向かった先が自転車ではなくトイレであるのをわかってしまった名前は、さてどうしたものかと苦笑せざるを得なかった。




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