02 May


出会いから1か月。心地よかったはずの風はすでに不快指数を上げるものになっている。
荒北靖友にとって自分との出会いは最悪のものだったに違いない。
しかし名前も驚いたのだ。本当に。
知らないふりをするのが正解だったのだろう。それは彼の表情からありありと読み取れた。
あれから名前と荒北は『金城の知り合い同士』という距離感を保っていた。
月曜日の1限目。彼と唯一同じ講義の時間、それとたまに構内で出くわした時に軽い挨拶をする。それだけだ。
金城からは時々連絡があった。
たわいもない日常の話だ。その中に部活の話もあって、時々荒北の名前が出てきた。荒北が金城にどこまで話しているかはわからないが、察しのいい彼のことだ。名前と荒北の間にできた決定的な溝に気を遣ってくれているのだろう。

「遠征?」

ある日、金城から一緒に昼食をとろうと誘いがあった。一瞬、荒北がいたらどうしようかと迷ったがそれを理由に断ることもできず指定の時間に学食へ向かった。
そこには金城が一人座っており、名前は胸をなでおろした。そしてお互いの注文が揃ったところで金城が本題を切り出したのだ。

「ああ。来週は遠征があって、荒北は月曜の講義に出られない」
「で、どうしろと?」
「ノートを貸してやって欲しい」

小学生か。過保護か。
言いたいことをまずは飲み込み、金城の言葉を待った。

「あの講義の知り合いは苗字一人らしいし、ノートがないと厳しい講義だとも聞いている」
「だからって金城が頼むことないんじゃない?自己責任でしょ?」

断りとほぼ同義の名前の主張は予想の範疇だったのだろう。金城は微笑んで頷いた。

「その通りだ。自己責任だな。だが、オレはそうして欲しいと思っている」

真意が見えない。
荒北にとってもありがた迷惑ではないだろうか。彼は名前との必要以上の接触を望んでいないのだから。

「強制するつもりはない。気が向いたらでいい」
「私は腹の探り合いとか苦手だからはっきり聞くね?何が目的?」

名前の怒りを込めた口調に怯みもせず、金城はお茶を飲んでいる。

「オレは割と勘が良くてな。いいんじゃないかと思ったんだ」
「意味わかんないんだけど」

何がいいというのだろう。
尋ねてみようとしたが金城の顔はそれ以上の問いを受け付けてくれなそうだったので諦めてしまった。


***


「はい、先週のノートのコピー」

荒北は目を丸くしつつも名前からコピーを受け取った。

「悪ィ。恩に着る」

素直に受け取ってもらえたことに少々拍子抜けする。もしかしなくても(失礼だが)荒北は見た目に反して真面目なのかもしれない。真面目でなければ月曜1限の講義など取りはしないだろうが。

「あー…礼に何か奢る」
「え?コピーだけだし別にいいよ」

真面目なだけではなくて義理堅いらしい。しかし荒北が名前に対していい感情を持っていないことは知っているので慌てて否定する。

「正直すげー助かるし、あと…何だ、大人げないっつーか…今までの態度も悪かったっつーか…」

どうやらこれは荒北なりの歩み寄りらしい。

「ノートのコピー1つでそこまで感謝しちゃう?」
「一応反省してンだよ。おめーが悪いわけじゃねーのにあんな態度取ってよ」

名前が欠片も悪くないわけではないだろう。しかし荒北はそれをわかった上でこう言ってくれるのであれば、それを拒否する理由はない。

「金城だろ」
「あ、わかる?」
「それ以外ねーだろ」

荒北の溜息に、金城は彼に対してもあのペースで接しているのであろうことが窺えた。柔和そうな物腰に反して、彼の頼み事は強制力が半端ないのだ。

「で、何がいいのォ?」
「何でも奢ってくれるの?」
「……オレ金持ってねーぞ」

名前がにんまり笑って見せると、荒北の顔が引きつったのがわかった。




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