*ある出来事の裏側で


「…だから、私はまだ合格決まってないんだってば」
「でも部屋はもう契約してるだろ」

新開の一言に何も言い返せず黙ってしまうと、宥めるように頭を撫でてくる。

「せっかく来たんだし名前も決めちゃおうぜ」

2月某日。
一通りの入学試験を終えた名前はすでに推薦入学と入寮が決まっている新開と福富の家電選びについて来た。その理由は自分が買う際の参考にしようとしたからなのだが、新開はしきりに購入を勧めてくる。
それを断ろうとしたことろで冒頭だ。

「いざとなったらネットでも買えるし…」
「一緒に選んだものが部屋にあるのって嬉しいだろ」

この笑顔だ。
甘えるような、それでいて甘やかすような微笑み。
名前はこれに勝てたことがない。

「福富が待ってるから早く選んじゃおう」

名前の部屋のものを選ぶからと新開が言うと気を利かせた福富はどこかで暇を潰すと出て行ってしまったのだ。

「照れるなよ」
「照れてない。悔しがってる」
「悔しいか?」
「悔しいよ。隼人には勝てないなって思っちゃったから」
「……不意打ちでそういうのヤメろって言ってんのに」
「何が?」
「オレの方が悔しいって話!」

新開が手を引いて歩き出す。
ふと思いついてそれを引っ張って腕を組む。驚いて大きく目を見開いた新開に名前はニンマリと笑ってみせる。

「寿一と来てなかったら速攻抱いてるのに」
「福富と来てるからだよ」
「だよな」

想像してみる。
自分の部屋に新開と選んだものが並ぶのはくすぐったいが、確かに嬉しい。

「なぁ名前」
「何?」
「今度は2人で家具見に行こうぜ」
「家具?」
「ベッド」

唇に一瞬だけ掠めた感触に今度は名前が新開を見上げる。

「仕返し」

ニヤリと笑ったかと思うと再び青い瞳が近づいてきた。触れる直前に一瞬だけ止まり、名前の拒絶がないのを確かめてそれが重なった。

「こんなところで…」
「キスだけで我慢してんのに」

そう言うが、今夜名前は新開の部屋に行くことになるに違い。身体が熱いのは新開だけではないのだから。


***


「選べたか?」

合流した福富に抱き着かんばかりの勢いで名前が迫っていく。

「聞いてよ福富!隼人が大きい炊飯器選ぶから店員さんにスゴイ目で見られたんだよ」
「小さいやつじゃ足りないだろ」
「私の名前で買うのにあの大きさじゃ勘違いされるでしょ!」

実際に抱き着くわけはないだろうに、新開はそんな名前をしっかり後ろから腕を回してガードしている。
言い合いをしているはずが、どう見ても仲の良い恋人同士だ。

「おまえたちも相変わらずだな」
「「“も”?」」
「こちらの話だ」




prevnext

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -